エピソード1-33
※ ※
翌日、俺はリリアの部屋で正座させられていた。目の前には起こった様子のリリアがいる。
(怒った顔のリリアも可愛い)
などと思ったが、今は冗談が通じなさそうなので黙っておく。別に正座しろと言われたわけではないが、相手が怒っているのでつい正座してしまった。
「レイハルト」
「はい」
「何で私が怒っているか分かる?」
正直身に覚えがなかった。ドラゴン討伐後のことといえば婚約者候補の件を受けたくらいだ。
「勝手に婚約者候補の件を受けたことか?」
「別にそれは良いわ。むしろ歓迎してるし」
「ん?なんて?」
「なんでもない!」
後半が聞き取れなかったから聞き返したら怒られた。
「リリアは貴様の妙な術のことで怒っているのだ」
「妙な術?ああ」
オルガの言葉にうなずく。しかし、やはりなぜ怒っているのか分からない。
「あんな危ないことして、死んだらどうするつもりだったのよ!」
(なるほど、そう言うことか)
「でも、あれをしなければおそらく倒せなかった」
「だからって、あんなに回さなくても」
どうやらオルガはスキルのことを見ただけで大体わかったようだ。
「仕方ないんだ。そう言うスキルなんだから」
「だからって、10分の1にしなくても」
調整できないんだ。すまんな。
「レイハルト、約束してほしいの」
「約束?」
リリアが頷く。
「もう2度と、あのスキルを使わないって」
(なるほどな)
「それは難しいな」
「何で!」
リリアが叫ぶ。
「今後もあれくらいの敵が出てこないとも限らない。使わずに勝てるならいいが、そうでないなら。それに、俺はリリアの専属騎士だ。リリアを守るために必要なら使う」
そう宣言すると、リリアは顔を赤くして俯いた。
「ずるい、そういうこと言うの」
リリアが顔を上げる。
「騎士レイハルト、命令です。次にあのスキルを使うときは、私に許可を取ること」
「はあ!?」
「い・い・わ・ね」
「はい」
リリアにすごまれて頷いてしまった。
「それともう1つ、というかこっちが本題」
リリアが改まって言う。
「私からもドラゴン討伐の報酬を出そうと思うんだけど、何か欲しい物とかある?」
(欲しい物、ねえ)
今特別欲しいものは特になかった。しいて言うなら食事の味が濃すぎるくらいだが。
「そう、だな。厨房を貸してもらえるように言ってくれないか」
「そんなのでいいの?」
「ああ」
俺は試してみたいことを思いついた。
「別にそれくらいなら報酬じゃなくてもいいのに。分かったわ。でも他に何か欲しいものとかが出来たら言って」
「分かった」
「よし」
2日後、俺はリリアと共に厨房に来ていた。
「ところで、何を作るの?」
「俺の故郷の料理だよ」
リリアの問いにそう答えると、リリアや料理人の目が輝いた。
「レイハルト様はここよりずっと遠くから来られたとか」
「きっと見たこともない料理が見られる」
(そんなにハードルを上げないでくれ)
今回作る料理は餃子だ。片手で食べられるからゲームのお共にちょうど良くて自分で良く作っていた。
まずは皮を作る。材料は小麦粉(の様なもの)と水と塩。人によって若干異なるが基本はこれで行ける。
次にタネ。肉と野菜。肉はブロックしかないので叩いてひき肉のようなものを作る。
野菜はみじん切りにする。
タネを皮で包み、蒸し焼きにする。火は魔法で簡単につけられるようだ。
出来上がった物から皿に移す。
すべて焼き終わるとみんなの前に出した。
「どうぞ、餃子です」
「ギョウザ?」
聞いたことない料理名に困惑する料理人。レイハルトは作っているときから我慢の限界だったので早速食べた。
(やっぱ醤油か何か欲しいな)
調味料を見て見ると、醬油のようなものを見つける。
「これは?」
「魚醤です」
魚醬、ナンプラーか。試しに餃子を魚醤につけて食べてみる。魚の生臭さはあるが有りだ。
レイハルトが食べるのを見て他の人たちも食べだす。口々に称賛の声を口にする。
「ほんと、美味しい」
リリアも気に入ってくれたようだ。
「レイハルト、どうしたの?」
リリアがこちらを見ながら首を傾げる。
「貴方、涙が出てるわよ」
「え?」
驚いて目元に手を当てると確かに濡れた。自分は泣いていた。
そのことを自覚した瞬間に胸を締め付けられるような感覚に陥った。涙は止まらず胸が苦しい。
「レイハルト!」
俺は全速力で自室に戻った。後ろでリリアの声が聞こえたが止まれなった。
俺は部屋に入るとベットにあおむけに寝ころんだ。
なぜ、今さらになってこんな感情が出てきたのだろう。郷愁の念、とでも言うのだろうか。
だが逆に当然でもあるように感じた。自分が何者か分からず不安定な時に故郷を思い出すようなことをしたのだ。
帰れるか分からない自分の故郷、日本。今回のは日本ではなく中国の点心だが日本で食べていたものには違いない。
(俺が何者か、なぜこの世界に来たのか。元の世界に帰れるのか)
その答えを知っている可能性がある人物を知っている。
(彼女ならもしかしたら)
彼女なら今でも動いてるかもしれない。それを確かめるにはもっと遺跡を回らなくてはならない。
ドアからノックの音がした。
「レイハルト、入って良い?」
リリアの声だ。俺はドアを開けた。
「もう、大丈夫?」
「ああ」
厨房での様子から心配してくれていたのだろう。
「レイハルト、ごめんな」
「リリア」
リリアのセリフを遮る。
「俺は改めてドラゴン討伐の報酬をもらおうと思う」
「な、何?」
リリアが少し恐怖を感じたような表情になる。
「長期間の遺跡探索をさせてほしい」
「遺跡?」
予想外の回答だったのか頭が一瞬止まった。
「ああ、あそこに俺の探しているものがある」
「でも、今でも時々出てるわよね」
「半日じゃ短い。1ヶ月ぐらい欲しい」
「1ヶ月!」
今のリリアの状況ではそんなに長時間城を離れることは出来ない。もちろん俺もだ。
「分かったわ。お父様に相談してみる。ただ3日後にお茶会があるからそのあとになると思うけど」
「ああ、大丈夫だ」
エピソード1、完結です。次回からエピソード2です。




