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「これを、ここへ運んだのは?」
案内して来た部下が、自分が運んだと言った。
タクミは、その男に、すぐに死体を拾って来いと命令した。
最初、部下は「冗談でしょう?」と言ったが、タクミが本気だと分かると、しぶしぶ穴の中へ入った。足を踏み出すと、底で腐っていた死体が崩れて足首まで埋まった。部下は嘔吐した。
どうにかこうにか死体を引っ張り上げ、地面に寝かせた。
「ご苦労」
これまで、タクミがねぎらいの言葉など口にしたことは無かったので、部下は驚きと共に、嬉しくなって照れ笑いを浮かべ、上目使いでボスの方を見ながら首の後ろを掻いた。
タクミは、腰のホルスターに差してあった拳銃を引き抜くと、その頭に向けて引き金を引いた。
新たな死体を穴の中へ蹴落としたタクミは、ユイの遺体の傍らに膝をつき、開いたままの両目をそっと閉じた。
どういうわけか、酷く悲しかった。別の時間軸に存在するこの女は、タクミの知るユイとは別の人間である。だからこれは、本来自然界で起きるはずのない次元転移によって、人間としての本能が混乱しているだけだろうと考えた。涙は出なかった。そもそもタクミは、泣くことを知らない。人を殺すとき、死を意識した人間が泣き喚くのを何度となく見て来たが、どうすれば、ああいう風になれるのか解らない。
ただ、胸の中で激しい感情が渦巻いていることを感じていた。まるで、涙となって流れ出るはずの悲しみが、胸の中で還元されて、感情を増幅しているようだった。
そういえば、あの男。ユイを奪い返しに来た、柿色のジャケットを着た男。ショウゴと、たった二人で乗り込んで来たという、あの。
こちら側のユイの男か?
アジトに戻ったタクミは、すぐに男を捜させた。
名前を、アキラというらしいことは、すぐに分かった。
さらに輸送隊にいるという情報を掴み、隊長のマサトを問いただしたところ、反抗して来たので、輸送隊を潰すはめになった。これからは、輸送隊を使わずに物資を運ばなければならない。面倒くさいことになった。
ただ、よい見せしめにはなった。輸送隊は、ヴェスパを除く、この町最大の武装勢力であるからだ。これで、我々に反抗しようなんて考える奴は、いなくなっただろう。
けっきょく、アキラの居場所は掴めず、ユイと同じノイサンハイブの出身であることだけが分かった。
ならば、いてもいなくても、ノイサンハイブを潰してやろうと考えていた矢先のことだった。意外なことに、『向こう側』でアキラが目撃されるとは…。
どういうことだ?ストラス・ゲートが、もう一つあるというのか?
自分は、ゲートを使って今の地位を手に入れ、ヴェスパをこの町最強の組織に育て上げた。もう一つゲートがあるということは、自分にとって脅威となり得る。
タクミは急遽ノイサンハイブへの襲撃を一旦延期し、部下を使ってゲートの捜索に乗り出した。
どちらにせよ、ノイサンにアキラはいない。見せしめ以上に襲撃するメリットはない。
しかし、我々の力を借りずに向こうの世界へ?何者だ、あの男?
椅子の上に背筋を正して座るタクミは、微動だにせず、片目の視線を宙に投げかけている。その冷たい表情からは、何も読み取ることができない。




