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地下にあるヴェスパのアジト。ソファやテーブルが雑然と並ぶ大きなホールを、天窓から注ぐ濁った陽光が、海の底のように照らしている。夜は投光器の光に照らされ、騒がしいホールだが、今は静まりかえっている。ハイブへの襲撃や略奪を行わない日は、基本的にフリーで、いつもなら、眠っている者や飲んだくれている者、ギャンブルをする者などが多くいるのだが、近頃は別の仕事で皆、出払っているのだ。
ホールから長い通路を経た先に、タクミの執務室があった。ここにも天窓があり、外の光が差し込んでいる。ホールほどではないが、かなりの広さがある。絨毯は敷かれておらず、ビニールタイルの床が剥き出しになっている。本来は行き止まりでないのだが、奥の通路は厳重に塞がれていて、ここに続く通路はホールから続くものをおいて他にない。
その奥の壁際に、ポツンとある木造の、無骨で頑丈な椅子。そこにタクミは座っていた。机はない。椅子だけが置かれてある。まるで玉座だ。この部屋の不必要な広さも手伝って、執務室と言うよりは、ヨーロッパの中世の城にある、謁見の間といった風情だ。
頭に斜交いに包帯を巻き、左目を覆ってある。あの日、ユイが放った弾丸は、タクミの目を潰し、眼窩の一部を抉り取った。ろくな医療技術も無い世界で、一週間も生死の境を彷徨った。もともと細身であるタクミは、さらに痩せ細り、頬がこけ、残った右目が飛び出すほど大きく見開かれている。それが、潰れた左目の視野まで賄おうとするので、カメレオンのようにギョロギョロ動く。
以前から人間離れした空気を纏う少年であったが、今はどこか、バケモノじみた雰囲気を持っていた。
しくじったと、タクミは思った。
あのとき、ユイと連れの男を殺す方法は、いくらでもあった。今でも、どうして、そうしなかったのか、自分でも不思議に思う。そもそも、あの女は最初から殺すつもりで呼び寄せたのではなかったか。
向こうの世界にいるときから、自分は彼女のこととなると冷静でいられなくなる。あのとき、ユイが自分に銃口を向けたのを見て、うっかり動揺してしまった。トラウマが蘇った。
その結果が、これだ。片目を失った。いや、死んでいてもおかしくなかった。
ユイは死んだらしい。自ら頭に銃口を突き付けて、引き金を引いたのだそうだ。
遺体は既に片付けられてしまっていたが、死の淵から戻ったタクミは、部下に命じて、捨てたという場所まで案内させた。それは、アジトからほど近いところにある公園だった。
穴が掘られていて、そこに、頭が半分吹き飛んだユイの死体が、奇妙な格好に関節を折り曲げて捨てられてあった。死体は、他にも4~5体あった。冬なので、一週間放置されていたにも関わらず、腐敗の度合いは少なかった。近くには、前の晩捨てられたカリナの遺体もあったが、それは、タクミに何の感慨も起こさせなかった。




