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 結局、ゴロウの言いなりになっている自分が悔しかった。どうして、ゴロウはワスプなどになってしまったのだろう。百歩譲って、ユイを奴らに差し出したのは、ハイブを救うために必要だったとしよう。しかしヴェスパは、そのユイの仇ではないか。

 今、この町最強の勢力は、紛れもなく奴らだ。奴らに付くのが、得策だと判断したのだろうか。だとしたら、アキラは絶対にゴロウを許せない。

 いいや…、と思い直す。ゴロウは頭が切れるが、損得勘定だけで物事を決める人間ではない。だからこそ、人望を集めるのだ。

 ヴェスパの内部に入り込めば、タクミを止められると思ったのか?いくらなんでも、不可能だ。

 しかし、ゴロウならば、それもあるかと思った。信じたかった。ゴロウが、性根まで腐っていないと、そう信じたかった。

 周囲の風景が、段々と見慣れた物になり、朝もやの中に、見慣れた建物が姿を現した。一階がバリケードに覆われ、正面に狭い畑がある。二週間前から、何も、変わっていないように見えた。

「止まれ!動くな!」

 静まりかえったビルの間に怒声がこだまする。屋上にいた見張りが、ガチャリと猟銃に弾を装填した。

 アキラは両手を上げて膝をついた。地上にいた見張りが、もう一丁の猟銃を構えて駆け寄り、素早くアキラの前に回り込んだ。顔を見るなり、

「アキラじゃないか!」。男は驚いて言った。

「ケンジさん。時間がないんだ。すぐに、マミヤさんたちを集めてくれ」


 念のためのボディチェックを受けた後、アキラは縄梯子を上り、ハイブに入った。

 窓からハイブに入ると、ケンジが梯子を巻き上げた。

 アキラが帰って来たことを聞きつけた子供たちが、朝も早いのに、駆けつけて来た。

「アキラ兄ちゃん!」

 一番に駆け寄って来たのは、タケルだった。

「よぅ、タケル。いい子にしてたか?」

 頭をクシャクシャと撫でまわす。

 ヒカリが少し離れたところから、泣き出しそうな顔で、こっちを見ていた。

「兄ちゃん、急にいなくなるんだもんな。心配したぜ?マミヤのおっさんは、兄ちゃんがハイブから出て行ったって言うけど、嘘だよな。兄ちゃんが、俺たちを放って出て行くわけないもんな!ところで、ユイ姉はどうしたんだ?ゴロちゃんは?一緒じゃなかったのかよ?」

 アキラは何も言わず、少し強めにタケルの髪を掻き回した。

「イテテテテテテッ、何するんだよ!」

 タケルは無邪気だが、ヒカリの方は、なんとなく事情が分かっているようだ。アキラたちがいなくなった理由も、アキラ一人が帰って来た理由も。

 しばらくして、ヒザキとスーコがやって来た。どういうわけか、ヒザキは深刻な表情をしている。黒縁眼鏡のかかった眉間に、深い皺を刻んでいた。

「ヒザキ…。しばらくぶりだな」

「どういうつもりだ、アキラ」

「出て行ったことが、かい?それとも、帰って来たことが?」

 アキラのことを心配するような奴じゃない。たぶん、のこのこ帰って来たことに腹を立てているのだろうと思ったが、

「何しに、帰って来た?!」

 ほぅら、やっぱり。

「また仲間にしてくれと言いに来たわけじゃない。俺は、危険を報せに来たんだ」

 話を続ける前に、アキラは子供たちを部屋に帰らせた。この先は、刺激が強すぎる。タケルは行きたくなさそうだったが、ヒカリに促されて、しぶしぶその場を去った。

「輸送隊が、ワスプにやられた。女、子供まで皆殺しだ。ある人の話だと…」。ゴロウを『ある人』と言ったのは、彼がワスプになったということを、ヒザキたちに報せたくなかったからだ。ヒザキもスーコも、心からゴロウを尊敬している。「ある人の話だと、次は、このハイブが狙われているらしい」

「そんなことは、とっくに知っている!だから、どうして、この時期にお前が帰って来たんだと聞いてるんだ!」

「…え?」


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