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「フン。あんたには、お似合いのところだよ」
アキラは立ち上がった。もう、これ以上、ゴロウの顔を見ていられない。これ以上、憧れの人の堕ちた様を見ていられない。
ゴロウは体を起こし、
「俺を殺さないのか?」
「働き蜂一匹殺したところで、ヴェスパが無くなるわけじゃない。だが、いつか、俺がタクミを、この手で殺してやる」
「無理だ」。ゴロウは、口元の血を袖で拭いながら言った。着ている、薄汚れた作業着の袖に、新たな黒い筋がつく。「もう、誰もヴェスパを、タクミを止められない。奴は、この町の支配者になるつもりだ。もはやファームでさえ、歯が立たないだろう。じきに、町中のハイブが、片っ端から解体されていくことになる。いくつかは見せしめとして、皆殺しにされるだろう。手始めは、タクミの逆鱗に触れた哀れなハイブだ」
「まさか…」
「そう。俺たちのノイサンハイブだ」
アキラは歯軋りした。
「あんたは、それでいいのか?!あそこは、あんたが命がけで守って来たハイブだろ?!」
「だから助けたい」。ゴロウは、真剣な眼差しをアキラに向けた。「他のどのハイブが滅びようとも、悲惨な運命を辿ろうとも構わない。どれだけの子供が死のうと、どれだけの女が犯されようと構わない。ノイサンハイブだけは、俺たちのハイブだけは、何としても守りたい」。鼻からまた一筋、血が流れた。ゴロウは、まったく意に介さない。血は顎に沿って流れ、胡坐をかいたズボンに落ちた。「助ける方法は一つ。ハイブを捨てさせるしかない。ハイブを捨てて、みんなで何処か別の土地へ逃げるんだ」
「馬鹿言うな!ハイブから出て生きていけるもんか!ようやく住み慣れたハイブを捨てて、せっかく作った畑を捨てて、ワスプに襲撃されることを怖れながら、この寒い中、食料もろくに無いのに…。そんな生活に、子供や老人が耐えられるわけがない!死人が出るぞ!」
「そうしなければ、皆殺しだ!」。引き締まったゴロウの表情から、抑えきれなかった感情が溢れ出し、アキラは黙った。「降伏すれば、助かるなんて思うなよ。タクミが今、最も欲してるものは、見せしめにするハイブだ。ノイサンだけじゃない。他にもいくつかのハイブが同じ目に合う。それに、タクミとしては、片目を潰したお前と、そのハイブを野放しにして舐められるわけにはいかないのさ」
やはり、俺のせいで…。
アキラは自己嫌悪に震えた。自分が起こした行動によって輸送隊とその家族が殺され、今度はノイサンハイブが犠牲になろうとしている。
「俺は、精いっぱいヴェスパの進撃を遅らせてみる。どれだけ役に立てるかは分からないが、やらないよりましだ。お前はノイサンへ行って、みんなに逃げるように言うんだ」
「くっ…」。アキラは、奥歯を噛みしめて、涙を堪えた。
「そうだ。お前のせいだ。決して逆らってはいけない物に、お前は手を出した。そして、この状況を引き起こした。だが、その責任の一端は俺にもある。俺たちが動くことによって、ハイブから一人でも多くの命を救えるのなら、そうしなければならない」




