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 もう一つ、訊くべきことが残っている。

「三つ目の問題だが…。こっちのワスプと出くわした。向こうの世界でな」

「なんだと?」と、ストラスが、これまでになく真剣な声で言った。「そんなはずはない。ストラス・ゲートは、これ一つだけだ。勘違いじゃないのか?」

「いいや、間違いない。一人は、俺の仲間がつけた傷が顔にあったし、それに、ゲートのことも知っていた」

「あり得ない。…いや、待てよ」。独り言のようにそう言って、少し沈黙する。「そうか!鏡反射現象だ」

「なんだよ、それ?」

 ストラスが黒板に歩み寄り、チョークを取ったので、アキラは少し後悔した。また、退屈な講義が始まると思ったのだ。

 ストラスは、カツカツと音をさせて、黒板に『鏡反射現象』と書きなぐった。

「つまり、鏡に映るように対照的な出来事が、二つの世界の間で起きるということだ。かつて、一人の天才科学者がいた。彼は、長年の研究の末、縦横高さに時間、そして多様性三次元を加えた七次元世界の中で、自らの座標を正確に測定する術を編み出した。これは、多次元物理学における一つの到達点であるのだが、彼の功績はそれに留まらず、その後彼は、極めて近い隣の世界を測定することにも成功したのだ。彼の死の、一ヶ月前のことだった。残念ながら、その方法は伝わっていない。お前がさっきまでいた世界は、彼が測定した座標に存在する世界だ。もし、自由自在に多様性三次元の座標を測定する術を手に入れたなら、無数のパラレルワールドを旅することができるようになるだろう」

 前回の講義は、さっぱり分からなかったが、ここ数日、高畑に話を聞かされたせいで、半分くらいは理解できるようになっていた。

「前にも言ったが、世界には過去も未来もない。ただ、時間の仕組みが特殊であるため、脳がそう勘違いしているだけなのだ。過去に起きたことはもちろん、未来に起きることも、最初から全て決まっている。人がどんなに迷い悩んだ末出した結論でも、それは最初から決まっていることなのだ。だが、ここでは、敢えて時の流れがあるかのように説明しよう。そうでもしなければ、お前が理解することは難しいだろうからな」

 ストラスは、黒板の真ん中に、チョークで二つの白い丸を描いた。左の方にA、右の方にBと書く。

「さて、ここに二つのそっくりな世界があるとする。何から何まで瓜二つだ。一方の世界で誰かがくしゃみをしたなら、くしゃみをするタイミングも角度も、まったく同じ。空気中に散乱する唾液や鼻水、ウィルスの量や配置までそっくり一緒になる。外部から影響を受けない限り、この二つの世界は、永久に同じ道を歩むことになる。その二つのそっくりな世界、一方をA世界、他方をB世界と呼ぶとしよう。その二つの世界に、多次元物理学の天才科学者が現れる。A世界で、その人物がB世界の座標を取得することに成功したとしよう。当然、B世界でも、同じことが起きている。だが、B世界で取得した座標は、A世界で取得した座標と同じ物ではあり得ないのだ。何故ならそれは、自分の世界の座標だからな。このとき、B世界では、高い確率でA世界の座標を取得しているとされる。A世界から見たB世界と、B世界から見たA世界では、まるで鏡に映るように、相対的に同じ動きをしているからだというのが、その物理学者の見解だ。そして、これを、鏡反射現象と呼ぶ」

 ややこしい話だが…。

「要するに、無数にある世界の中から、一つを見つけたら、相手も自分のことを見つけてたって、そういうことか?」

「ほう」と、ストラスは感心して、「一週間で、ずいぶん見違えたな。高畑の講義でも受けたか?」

「まぁね」

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