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「話を続けるぞ。鏡反射現象が起きたとき、それは二つの世界の特異点となる」
「特異点?」
「時間軸において、二つの世界が違う道を辿り始めた瞬間のことだ。その、僅かなズレが、時と共に大きな差異となり、一方でパンデミックが起きたというわけさ」
「つまり、ナニか?その物理学者のせいで、この世界にパンデミックが?」
アキラが言うと、ストラスは大きく溜め息をついた。
「結果的にそうなったというだけだが、そうでないとも言えない。この世界と向こうの世界との違いは、全て、二つの世界で彼が座標を特定したからだとも言える。そして、ストラス・ゲートが存在しなければ、誰もそのことに気付かなかった。鏡反射現象が起きたと思われる座標の特定時期、つまり特異点は、彼が死ぬ僅か一ヶ月ほど前だ。15年前になる。それ以前のことについては、こちら側と向こう側で、まったく違わないはずだ。特異点を境にして、バタフライエフェクトが少しずつ二つの世界の差異を広げていき、今の時点に行き着いたというわけさ」
「ばたふらい…」
「知らなくてもいい。気になるなら、高畑にでも訊くんだな」
馬鹿にしやがって…。
「どうでもいいことだけどさ。その天才物理学者、たぶん尾藤洋造っていう人だろ?」
「よく…、知っているな」。仮面の向こうで、明らかに驚いている。
してやったりと、アキラは喜んだ。
「これも、高畑のおっさんから聞いたことだよ」
『15年前に死んだ』でピンときた。やはり、この仮面の男は、あの研究室と関係がある人物だ。
「つまり、もう一つのストラス・ゲートは、あっちの世界でできたってことか?」
「そういうことだ。ゲートの原理自体は、特異点より前にあった。それを再現することは、そんなに難しいことじゃない。難しいのは、あくまで座標の特定だ。鏡反射現象によって、向こう側の教授がこの世界の座標を得、それを使って、あちら側の教授本人、或いは別の何者かがストラス・ゲートを、この世界に向けて開いたのだろう」
そういえば、奴らのボス、タクミは、もともと、あちら側の人間だと、傷の男が言っていた。ひょっとしたら、ゲートを開いたのは奴の仕業かも知れない。しかも、ゲートを通って二つの世界を行き来している。
もし、あのガレオンとかいうライブハウスに奴らのゲートがあったら…。ライブハウスと、燃料が積み上げられてあった地下鉄の『小菅駅』はすぐ近くだ。あそこから、ゲートを使ってこちらの世界に物資を運び込んでいるとしたら、あそこにあった大量の燃料にも納得がいく。逆に、それらを買う資金は、こちらの世界を探せば、いくらでも出て来る。
「でも、おかしいんだ。このゲートを通れる奴は、そうはいないんだろう?だけど、あっちのゲートは、7人も通っている奴がいるみたいだぜ?適格者ってのは、そんなにありふれたものなのかい?」
「向こうの世界の人間ならば、ほとんど全員が適格者だ」
「そりゃあ、ずいぶん不公平な話だな」
「おそらく、7人全てが向こう側出身なんだろう」
アキラは、今日聞いたワスプたちの会話を思い出した。
「いや、はっきりしたことは分からないが、たぶん違う。元々向こう側にいたのは、たぶん一人だ。あと、関係あるのかどうか分からないけど、奴ら、俺のことを『天然』だって」
その言葉で、ストラスは理解したようだった。
「なるほど。そういうことか。6人も…。ずいぶん無茶なことをする奴らだな」
「なぁ、もったいぶらずに教えてくれよ。あいつらは、いったい何をしようとしてるんだ?」
「それは、私にも分からない」。ストラスは、かぶりを振って答えた。「そして、知る必要のないことだ。大方、向こうの世界で偶然ゲートのことを知った奴が、好奇心か金儲けのために、利用しているのだろう。我々には関係ない」
確かに、この世界では、ただの紙切れとなってしまった紙幣。それが向こうの世界で、如何に絶大な力を持つかとういことを、この一週間でアキラは実感していた。そして、この世界でそれらを手に入れるのは、容易い。
「果たして、そうなのかな…」
金のため?アキラは、タクミのことを思い出した。あの得体の知れない少年。彼のことを深く知っているわけではなかったが、タクミのイメージと金儲けは、いまいち、しっくり噛み合わない。




