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 大学で過ごす時間が短かったので、町に出たのはいつもより早い時間だった。肉屋の隣の郵便受けを確かめ、階段を上って部屋の前まで行ってみるが、黒田がいる様子はない。

 やはり、今晩、ストラスの意見を聞くしかないか。

 今後の計画については、毎晩のように望巳と話し合っているが、まだ、解決策は見つかっていない。ストラスが何を思って黒田を殺そうとしているのか分からないが、彼と話し合って、他の方法で解決が図れるのなら、そうしようという方針だ。殺さなくても、ひょっとしたら、半殺しくらいで済むかもしれない。

 喫茶店、リバーサイド・パステルカラーに客がいないことを確認し、場末の貧民街をブラブラと歩く。午前中のこの時間帯、通行人は少ない。フェンスを隔てたどぶ川は、コールタールを流したように真っ黒で、泥の中に何やら蠢く物があった。白黒二色が入り混じった髭を顔の下半分に生やし、汚い格好をした中年男が道路の隅であぐらをかいている。

 毎日ここいらを歩き回るので、道もだいぶ覚えてきた。12月だが、この日は日差しも温かかったので、アキラは大きく欠伸をした。

 どぶ川を渡るとき、橋の向こうから二人、がらの悪い男たちがやって来ることに気が付いた。すれ違うとき、その内の一方、坊主頭の男が、睨むような目つきでこっちを見た。珍しいことではない。この辺には、こういう手合いがたくさんいる。アキラは一瞥して、そこを通り過ぎた。

 通り過ぎて、そこで、アキラは突然立ち止まった。

 今の男…。

 坊主頭の方ではない。その隣にいた、あの男。知っている顔だ。誰だったか。忘れるはずがない。ノゾミが死んだときにいた、四人のうち一人。二人は死に、一人はハイブに出入りしている商人だった。逃げ延びた残りの一人だ。

 この世界と向こうの世界では、同じ人物がそれぞれ存在している。だから、その生死に関わらず、向こうにいた者がこちらにもいることは、ノゾミやスーコの例で証明されている。

 だが、あの男の顔の傷。頬から唇にかけて切り裂かれたような、あの傷は、スーコが付けたもののはず。向こうの世界とは無関係に、こちらの世界にいるあの男に、あの傷がつくはずがない。

 アキラは振り返ると、男たちの後を追って走り出した。


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