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翌日から、アキラは望巳や直子と同じ時間に家を出て、昨日と同じコースを辿った。朝一番で高畑の研究室を訪ね、そこでコーヒーを飲み、泊の不機嫌とストラスの無表情を確認するのが日課になった。そのたび、高畑が多次元に関する講義をするので、毎日続けて聞いていると、話の内容が少しは分かるようになった。同時に、あのときはチンプンカンプンだったストラスの話が、少しずつ分かってきた。
午前中のうちには、黒田のマンションへ向かう。相変わらず、郵便受けは溢れたままで、部屋には鍵がかかっていた。
午後は、町の中をあてもなく歩くことが多かった。こうしていれば、何処かでばったりユイに会うかもしれないと思ったが、そんな幸運は訪れなかった。
それでも、こちらの世界の物はどれも、目新しかったり、また、懐かしかったりしたから、ただ見て回るだけで退屈はしなかった。
何も進展がないまま四日が過ぎ、土曜日がやって来た。毎週日曜日の午前零時、教会の地下でストラス・ゲートが開く。向こう側の世界にいる、あのフクロウの仮面をかぶったストラスという男なら、何か知恵をくれるかもしれない。
望巳は仕事に行ったが、直子はこの日非番で、アキラは行ってきますと挨拶をしてマンションを出た。聖修学院大学は、土曜日は休日で授業がないらしい。キャンパスはいつも通り開いていて、平日と変わらないくらい大学生がいたが、研究室の部屋をノックしても高畑は顔を出さなかった。鍵はかかっていなかったので、挨拶もなく部屋に入ると、灯のない、カーテンの閉じた薄暗い部屋の中で、止まり木の上からストラスがこちらを見ていた。猫と違って、フクロウの目は暗闇で光らない。フクロウの夜目が利くのは、網膜の細胞が人間の八倍もあるからだと、リクが言っていたのを思い出した。
奥の部屋に、もう一つ気配があるので、行ってみると、パソコンの前に泊がいた。アキラが顔を出すと、こちらを見ようともせずに、
「先生ならいないよ」。それから、思い出したように、「どちらの先生もね」
昨日までは、鼻に絆創膏を貼っていたが、今日はなくなっている。
「鼻の火傷は、もういいのかい?」。キーボードを叩く泊の手が止まった。ギロリとこちらを見る。「悪かったよ。不注意でさ」
「わざとだろ?」
「わざとだ。悪かったな」
「こっちは忙しいんだ。気が散るから、用がないんなら、さっさと出て行ってくれ」
「一つ思い出したことがあるんだけど、言っていいかな?ひょっとしたら、その研究に関係のあることかもしれないんだけど…」
泊は答えず、鼻でフフンと笑った。
「悪いけど、君に、そんな難しい話ができるとは思わないな」
「ストラス・ゲートが球体に見えるのは、俺たちが三つの次元までしか認識できないかららしい。実際は、七つの次元にまたがっているんだ。ある人が、そう言ってた。六つじゃない。七つなんだ」
アキラが言うと、泊は、またフフンと笑った。
「何かと思ったら、七次元論か。先生の話を毎日聞かされるうちに、知ったかぶりしたくなったのかい?坊や。夢物語だよ。七つ目の次元なんて、あるわけがない」
『坊や』の言葉にカチンときたが、こんなところで青瓢箪一人懲らしめても、何の得にもならない。アキラは何も言い返さず、研究室を出た。




