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「姉さん!姉さん!どうして、そんなことをするのさ!嫌だよ、死なないで!」

 小学五年生の姉は微笑んで、こちらを振り返った。

「だって、あなたが生き延びるためには、こうするしかないんだもの」

 その手には、拳銃が握られている。

「嫌だ!姉さん!やめて!」

「あなたなら、大丈夫。強く生きるのよ、アキラ」

 姉は、拳銃を自らの頭に突き付け、引き金を引いた。


 目が覚めると、見知らぬベッドの上だった。体を起こすと、左の脇腹と肩に激痛が走った。

 アキラの上半身は裸で、傷口には包帯が巻かれてあった。

 床は白いが、壁紙や天井は薄い青で塗られている。小さなワゴンには消毒液と包帯が乗っていた。ベッドの他にはそれだけしかない、殺風景な部屋だ。どういうわけか、窓ガラスの外側に、目の細かい鉄格子が嵌められてあった。

 ふと、視線を感じて横を見ると、4、5歳の小さい子が、大きな鼻の孔が前を向いた、こう言っては何だが、あまり可愛らしくない女の子が、こちらを向いてあんぐりと口を開けていた。

「あ…」と、何か言おうとした瞬間、

「父ちゃ~ん!」と、子供は部屋から飛び出して行った。

 しばらくして、女の子が〝父ちゃん〟らしい男を連れて戻って来た。まだ三十過ぎくらいの男で、女の子と同じ鼻をしている。タラコ唇で歯並びも悪く、お世辞にも色男とは言えない。

「やぁ、起きたな」

「ここは?俺は…、どうして、ここに?」

「どうしてって、俺たちのハイブの前に倒れていたから、仕方なく回収したまでさ。見た奴の話だと、妙な奴が、お前を担いできたらしい」

 顔と大違いの、低くて凛とした良い声で、男は語った。

「妙な奴?」

「なんでも、フクロウの面をかぶっていたらしい」

「フクロウ?!」

「知り合いか?」

「いいや…。しかし、前に倒れていたくらいで、どうして俺を助けたりした?このハイブじゃ、行き倒れの放浪者なんかを一々救助してやるのかい?下手に救助して、病気を持ち込まれたらどうする?」

 男は、可笑しそうに笑った。

「助けてもらっておいて、その言い草はないだろう。いくら俺たちでも、見ず知らずの奴を助けるほどお人好しじゃないさ。それに、今はもう、D13ウィルスなんて、この世界に残っていない。かかった奴は、みんな死んだんだ。残っているはずがない。あったとしても、今生きている俺たちには、免疫があるはずさ」

 なるほど。理に叶っている。しかし…、

「ちょっと待て。俺を知っているのか?」

「知ってるさ。ノイサンハイブの奴だろう。いつも、小さい子を肩車している。あの子に感謝するんだな。あの子がいなかったら、俺はお前を覚えていなかった。助けてもいなかった」

 肩車で思い当った。

 そうか。こいつ、輸送隊だ。

「マサトだ。よろしくな」。そう言って、右手を出した。

「マ、マサトォ?!」。アキラは、ひっくり返りそうなほど驚いた。せっかく手当された傷口が、また開くかと思った。「マサトって、あのマサトか?隊長のマサト?!」

「そんなに、意外かな。…ほら」と、マサトは両手で顔の上下を隠して、目だけを出してみせた。

 鋭い切れ長の目。確かに、あのマサトだ。

 素顔を見たら、女たちが何て言うか、見ものだな。

「腹を刺されて、肩を撃たれていたな。ワスプにでもやられたか?今のところ、ノイサンハイブが襲われたなんて情報は入っていないが…」

 アキラは、黙ってうつむいた。

「話したくないか…。だが、これは重要なことなんだ。助けてやった恩もある。お前には、話す義務があると思うが?」

 あからさまに恩を売って来る。『誰が助けてくれなんて、頼んだ?』と言ってやろうかと思った。むしろ、死んでしまいたい気持ちだった。だが、輸送隊に自分を助ける義理なんてなかった。見殺しにして当然だったんだ。それを助けたのだから、恩を感じておくべきかもしれない。

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