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ホールの内部には、かなりの数の人がいるのが分かった。天井から差し込む光で、その一帯は明るく、こちら側から容易に確認することができた。この通路から見えるのは、そのほんの一部だが、50人くらいはいるように思える。不規則に並んだ椅子やソファの周囲で、寝そべったり、飯を食ったり、酒を飲んだり、または昼間にも関わらず女を抱いたり、各々好き勝手なことをやっていた。ハイブのみんなのように、あくせく働く者など、一人もいない。彼らは略奪したものを食って暮らし、それが無くなると、また略奪に出かけるのだ。
堕落した人間の姿を見せつけられるようで、アキラは胸がムカムカした。
拳銃を構え、なるべく壁沿いに身を寄せてホールに近づいた。明るい向こう側から、こちらの姿は、よほど気を付けなければ見えないはずだ。反対側の壁には、ショウゴがいる。通路のところまでたどり着くと、言葉を発せずに目で合図を交わし、それぞれ右と左の通路へ体を滑り込ませた。
右の通路は、大きく左にカーブしていた。カーブした通路の向こう側から、足が一本突き出しているのを見つけて、アキラはギクリとした。
銃を構えて足音をさせないよう、そっと近寄って見ると、酔いつぶれた男が、壁に背を預けて寝息をたてていた。胸を撫で下ろす。仮に、人に見つかったとしても、拳銃をぶっ放すのは最後の手段だ。銃声がすれば、すぐに見つかり、人が集まって来るだろう。そうなるともう、助け出すことはおろか、逃げることもできなくなる。
やがて、右側に、エレベーターホールが現れた。薄暗い円形の部屋に、今は稼働していないエレベーター。その両側にドアがあった。ショウゴの話では、手前の方にユイがいるというが…。
左側には短い通路があり、わずか数メートルで噴水のホールにつながっていた。確かに、このままエレベーターホールに踏み込めば、間違いなく発見されてしまう。
『いいか。絶対に失敗できない作戦だ。最初から全力で行こう。…3分だ。3分でできるだけ、女がいる部屋に近づくんだ。3分したら、俺が行動を起こす。何かあった場合は、もっと早いかもしれないがな。とにかく、こっちに注意が向いたら、急いで彼女を助け出し、全力で逃げろ。覚えているか?松明の数は17本だ』
両手で銃を握りしめ、壁に背中を点けて、何度も深呼吸した。チャンスは一度きりだ。マサキという男が吐いた情報が正しいとは限らない。ハプニングがあるかもしれない。疑問や思うことは山ほどあったが、自分が今すべきことを完璧にやり抜くだけだと自分に言い聞かせて、ただ、待った。
遠くで悲鳴が聞こえた。続いて怒声が響く。
始まった。
すぐ向かいには、タクミという、ワスプを束ねるボスの部屋。騒ぎを聞きつけたタクミが飛び出して来て、鉢合わせになる可能性を考えたが、ボケッとしている暇はない。
アキラは手前の部屋に飛びつき、ドアを叩いた。
「ユイ!ユイ!俺だ。アキラだ!助けに来たぞ」
それは、幻聴だと思った。
それは、この部屋に閉じこもってからというもの、何百回も夢想した状況だった。
しかしユイは、弾かれるように立ち上がり、ドアに走った。ドアを開けた先には、誰もおらず、きっと自分は悲嘆にくれるだろうと思いながら、それでも鍵を開け、ドアを開いた。
そこにあったのは、懐かしい顔。パンデミックで両親が死に、ハイブに来てからというもの、同じ子供部屋で長い間、朝起きればそこにあった顔。自分が最も愛し、そして相手も同じ気持ちだと実感できる人。
「ユイ!」
嘘…。夢じゃない。
言葉より先に涙が溢れた。




