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 その場で念入りに縛り上げてから、担いで少し戻り、横道に入ったところで、男を起こした。足首を縛られ、両手は後ろで束ねられている。

 活を入れて起こしてやると、男は、呻きながら目を開いた。

 男は眩しそうに顔をしかめた。懐中電灯で照らしているので、向こうからこちらの姿は見えない。

「な、何もんだ、お前ら。ここが何処だか知ってんのか?こんなことして、生きて帰れると思うなよ!」

「知ってるさ。ヴェスパのアジトだろ?しかし、勘違いするなよ。生きて帰れそうにないのは、お前の方なんだぜ?マサキ」

 男は、目を細めて懐中電灯の光を見つめた。

「その声…。ショウゴか?裏切り者が今頃、何の用だ!」

「おい、あんまり大きい声を出すなよ。もう一度眠ってもらうことになるぜ」

ショウゴは、カツンと角材をコンクリートの地面に打ち付けた。

「てめぇ!誰に向かって口きいてんのか…」

 ショウゴのつま先が、出っ張った腹に突き刺さる。マサキは唸って、体を横に倒した。

「大きい声を出すなと言ったろう?口を開くときは、質問に答えるときだけだ。いいな?俺たちは、女を探している。ユイって女だ。正直に答えれば、命は助けてやる」

「そんなことしたら、ボスに殺される」

「答えないと、今死ぬぞ」

「お前らまさか、あの女一人のために、ここまで来たのか?ボスといい、お前らといい、いったい、あの女、何者なんだ?」

 もう一発蹴ってやると、マサキは渋々、ユイが囚われている部屋の場所を話し出した。

 注意深く耳を傾けたが、アジトの中がどういう風になっているのか、予備知識のないアキラには分からなかった。

 いくつか質問し、どうやら嘘ではないと確かめたところで、ショウゴが角材を振るい、マサキは地面に突っ伏した。

「念のため、止めを刺しておくか」と、さらに角材を振り上げるショウゴを、アキラは止めた。

「やめてやれよ。助けるって言っただろ?」

「おいおい。お前が真に受けてどうするんだよ。人数を減らしておいて、悪いことなんてないだろ?それに、こいつらだって、あちこちのハイブで罪もない人たちを殺しまくってるんだ。バチは当たらないさ」

「ダメだ。もし、やり返すつもりでも、両手両足が縛られているんだ。動けないよ。それに、理由もなく人を殺したら、それはワスプと同じだ。お前はもう、ワスプじゃないだろう?」

「そうだな」と言って、ショウゴは角材を下ろした。「だが、甘い考えばかりじゃ、ここから先、生きてはいけないぞ」

 アキラは、黙って小さく肯いた。

「しかし、運はこっちに向いてる。お前の女は、個室を与えられて大事にされているらしい。ホールにいたら、どうしようかと思ったぜ。まったく、こいつの言う通りだ。お前の彼女は、いったい何者なんだ?」

「知らねぇよ。ユイはユイだ」

 二人は、十七本目の松明を置いた所まで戻った。ショウゴがアジトの方を指差し、

「いいか?ここを真っ直ぐ行くと、デカい噴水のあるホールに出る。そこへは行くなよ。ヴェスパのメンバーの大半は、そこで寝起きしている。見つかったらもう、女を助け出すことはできない。そのホールへ入る直前に、左右へ続く横道がある。道は、壁を挟んでホールの周囲をぐるりと回っている。その通路を四分の一回ったところに円形のエレベーターホールがあり、そこに二つ小さな部屋がある。向かって右側が女の部屋だ。左側には、間違っても入るなよ。タクミの部屋だからな」

「分かった。ショウゴは?」

「搖動作戦だ。おそらく、その通路にも人はいる。エレベーターホールの真正面は、やっぱり噴水のホールに繋がっていて、お前が部屋に入るのも出るのも丸見えだ。そのままじゃ、上手くいきっこない。俺が騒ぎを起こすから、その隙にお前は彼女を連れて逃げろ。いいな?」

「そんなことしたら、お前が…」

「俺は逃げるさ。この辺りのことは、よく知ってるし、足にも自信がある」。ショウゴは、真剣な顔でアキラを見た。「何よりも大切な女なんだろう?俺なんかのことを心配してる場合じゃない」

「恩に着るよ。でも、ぜったい死ぬんじゃないぞ。生きて、また会おう。そして、三人で、俺たちのハイブを作ろうぜ」

 ショウゴはフンと笑った。「いいな、それ。たいへんだろうけど、きっと楽しいだろうな」。そして、すぐ、覚悟を決めて言った。「行こう」

 歩くと、タプンと音がした。ショウゴが来ているコートの内側には、ガソリンと空き瓶で作った火炎瓶が、ニ十本ばかり吊るしてある。

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