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松明に火をつけ、地面に置いた。
ユイを助け出した後、帰り道は暗闇になる。追手が心配される中、ランプの灯でゆっくり歩いて帰るわけにはいかない。松明を目印にして走れば、逃げ切れる確率はずっと高くなる。
生きていてくれさえすれば、それでいい。俺は、命を賭しても彼女を助け出す。
何度も自分にそう言い聞かせて、ここまで来た。だが、ユイが攫われて、既に18時間が経っている。まったく無事だということは、あり得ない。
ワスプに襲われたハイブの女たちが、どんな目に合ったかというのは、風の噂で聞いていた。この18時間の間に、ユイの身に起きたことを想像すると、気が狂いそうだった。
ショウゴの話では、この先がアジトになっているという。
「タクミは頭もきれる。アジトに地下鉄を利用するなんて、よく考えたもんだ。真っ暗な上に入り組んでいて、おまけに罠まで仕掛けてある。俺のように、元メンバーでなかったら、アジトにたどり着くことすらできないだろう。ヴェスパに唯一の死角があるとすれば、それは油断だ。ハイブを襲う側の自分たちが、まさか襲われるとは思っていない」
「他にも、抜けた奴ってのは、いるのか?」
「タクミがボスになってからは、たぶん俺が初めてだ。奴の求心力は神がかっているからな。それに、ヴェスパのメンバーでいる限りは、恵まれた生活が送れる。食い物にも女にも不自由しない。裏切れば、もちろん殺される。裕福な生活を捨て、殺される危険を冒してまで抜ける奴ぁ、いない」
そういえば、ノゾミが死んだ日、ショウゴは偵察に行くのを拒んだ。あのときは、相手がワスプかどうか分からなかったが、ショウゴは、自分がノイサンハイブで生きていることを、知られるわけにはいかなかったんだ。
「ショウゴはどうして?」
「俺は、変わり者だからな。あいつの残虐非道なやり方が我慢できなかったんだ。見てしまったんだよ。顔色一つ変えず、子供を殺すところをな。昔、俺には二つ下の弟がいてな。ウィルスで死んじまったけどさ。ちょうどそれくらいの小さい子だった。知ってるだろう?皆殺しにされたハイブの話だ」
…ナインス。
さらに、もう一本松明を置いたところで、先に光が見えて来た。
「あそこだよ。松明は何本置いた?」
「十七本だ」
「よし。逃げながら数えるのを忘れるなよ」
そのとき、遠くに人影のようなものが見えた。アジトの方だ。
「シッ、誰か来たみたいだぞ」
「ちょうどよかった。女が何処にいるのか、聞きたかったところだ。隠れよう」
歩いて来たのは、一人の男だった。光を背にしてこちらに歩いて来る。懐中電灯を持っているらしかった。
酔っぱらっているのだろうか。フラフラと歩いてきて立ち止まり、壁にむかって、ズボンのチャックをおろした。
ジョロジョロと音をさせて用を足し、体を揺すって滴を落とし、チャックを上げたのを見計らって、アキラは首に腕を巻きつけた。男は、慌ててもがいたが、もう遅い。完全に極まったチョークスリーパーは、絶対にほどけない。しばらくして、男の腕から力が抜けるのを確認して、アキラは腕を解いた。




