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僕よりイケメンな女の子を目指そうか  作者: いせゆも


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浮き出た悪意・2

 破魔はブラウスの上にクリーム色のカーディガンを羽織っていた。いつもの刺々しい雰囲気はそれによって中和され、見事に破魔が本来もつ素材が活かされている。これが破魔でさえなければ、是非告白させてもらいたくなるぐらい、僕のドツボに嵌っている。

「簡素な服が好きだよね、破魔って」

 といっても、私服は禁止されているので大したコーディネートはできない。

「たとえラーナが相手だとしても、できる限りはしたいじゃないですか」

 破魔らしいや。「……デートという冠詞がついていて、ラーナの好みに合わせないわけにはいけないでしょう」と、僕に聞こえないよう小さく呟いた。筒抜けだったけれど、僕は指摘しなかった。少しは狙ったのかな?

 学園の外周をぐるっと取り囲む周遊道は、殊更ゆっくり歩いても、三十分くらいで一周できる。数の少ない運動系の倶楽部では、このコースでウォーキングやマラソンをするのが定番だ。というか、走れるほどの長距離を取れるのがここぐらいしかなかったりする。

 左右には道のりの四分の一区間毎に、季節ごとに開花する木が設置されている。これを僕らは【春道】【夏道】【秋道】【冬道】のように呼んでいる。春なら春道が綺麗。夏なら夏道が。そんな具合だ。おかげで季節の移り変わりが、目や鼻、肌を通して実感できる。道中の一部では、麓までを一眼でき、山々の風光な景色を眺めることができる。

 これら視界に移る全てが私有地というのだから、莫迦げたものだ。土地の少ない日本で、ここまで占有してしまっていいのかと首を擡げる。人が住まうのに適さない土地とは聴いたことがあるにせよ、それでも土地代だけでどれほど莫大になることやら。まあそこは華族の子女が集う学園。寄付金だけでも相当な額に昇るだろうし、僕みたいな一生徒が杞憂するだけ無駄なのかもしれない。

「破魔、なんかアンケート取ってたよね、うちのクラス以外で。なんだったんだい?」

「よくある、人気調査ですよ。今回はラーナと諫早についてでした。少し大胆に、好ましいか好ましくないかで」

 直接的にその人の気分を害する恐れがあるので、こういったアンケートは基本的にタブーだ。ただ諫早本人が「俺に情報を開示するならどんどんやってくれ」と笑いながら言うので、破魔が率先して行っていた。

「ラーナはやっぱりすごいですね。得票率九割を超えました。これだけ無条件に愛されてる【お兄さま】も珍しいんじゃないですか」

「僕はその、残り一割の心を開きたいのさ!」

「これ以上ライバルが増えるのは嫌なんですが……」

「え? なぜに?」

「まあいいじゃないですかそんなことは。それよりイサハヤですよ。これがまた、興味深いデータになりました。まず、イサハヤ本人です。四:六での四が『好ましい』で、六が『好ましくない』なんですよ。好ましくない派のうち、さらに七:三の七が『正直どちらでもいい』ですから全体として見れば拒絶するほどの反対派の方が少ないと言えます」

 人気が上がったといっても、それまでの人間関係を崩してまで受け入れたくもない。そんなところか。この短い期間でそれだけ好かれているなら十分だろう。

「もうひとつ、『どちらのアオが好きか?』というアンケートもとってみました。こうすると、二人の人気はほぼ五分五分だったんです。母体となる票数が、生徒数の六割ほど、というのもまた面白いですね。ラーナは好きだけどイサハヤは……という人も、意外と多いのではないでしょうか。……残りの票は、あの人の会員でしょうね。ラーナ単体ならともかく、梨山諫早連合軍となると、そこまで人は集まらないでしょう。何かの参考までに」

「やだなあ。まるで僕が、この後なにかをやらかすみたいな言い方をして」

「しないんですか?」

 僕だってよく騒動の渦中にいたりするけれど、今は【お兄さま】なんだ。余計なことをするつもりはないよ。…………。ないよ。

 あー、暇なんだよなー。諫早のことも(僕の中では)一段落したし。なにか刺激がないかなー。

「イサハヤがアオナシにいるのも、あと一ヶ月ですね。ようやく半分なのか、もう半分なのか」

 諫早からすれば、残りあと一ヶ月の間で片を付けなければいけないのか。

 僕も破魔も決して手を抜いているわけではない。四方に手を伸ばしてはいるが、「男の影」という時点で捕まえるのがとても難しい……と、そういう演技を僕はしている。

 諫早は、あまりに関係者すぎるので、他の視点を持てないのが敗因だと僕は踏んでいる。あと一ヶ月。その間に諫早は僕よりも材料に乏しいこの現状で、追いつくことができるのだろか。

 こんな風に、春薫る空気を楽しんでいた――その時だった。

「――だ、だめです、先輩!」

「いいじゃないですの。そこまで拒む必要はあって?」

 そんな声が、茂みから聞こえてくる。方や余裕綽綽、方や怯えを見せている。

「…………」

「…………」

「それが礼儀だよね」

「ですね」

 アオナシには男がいないので(……まあその大前提も、諫早のせいで壊れたわけだけれど)、恋をするなら女性同士が原則な世界。その世界に居る僕だって当然、そちらに興味があるわけで。あ、ちなみに僕は両刀です。男でも女でも恋愛対象にできます。

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