青の稲妻・10
新聞部室の隣には資料室があり、そこにはアオナシの長い歴史の集大成が詰まっている。加稲さんが在学中の新聞だって、ここにはあるはずだ。
「あれ。誰だろう、鍵をあけっぱにしたの」
「機密のために鍵は厳重に締めないといけないんですのに……まったく……」
どことなく、古くさい古紙の匂いに、アオが混じっていた。
まあそんなことはいいだろう。後で他の部員に追及すればいい。さっさと用事は済ませたい。加稲さんが在籍していた頃の新聞を引っ張り出す。
年齢を見るに、加稲さんは卒業のほぼ一年後に彼を産んでいる。言い返せば、卒業してから懐妊するまで、ほとんど間がない。在学中に許嫁、あるいはそれに近い形で婚約が進められていたはずだ。そして、卒業をしたタイミングで――。
生徒自治会長がどの家に嫁ぐ・婿が入ることになった」なども記事になりうる。「学校を代表する生徒が、このような素晴らしい家と結ばれることによって」と、そんな感じで。
加稲さんの在籍期間に起きたことでも調べれば、ちょっとは彼の父についても掴めるかもしれない。そんなアタリをつけたのだ。
……しかし、めぼしい記述はなかった。
せいぜいが【お兄さま】の公務や、その時の行事など、癖もなければ味気もない、無味無臭な記事。色気のある話題は欠片もない。
「おかしいなあ。結婚はしてると思ったんだけど。卒業した後の事実婚だったりするのかな。それなら触れられなくても納得できるけど」
「『諫早』という家系は、どうやらイサハヤの母系で繋がっているみたいですね。イサハヤの父は外部から受け入れられた、となりますね。庶子の可能性の芽があります」
今の制度では、夫と妻のうち、どちらかが華族の家系ならば、配偶者が庶子の出であろうとも、その産まれた子供は華族と見なされる。僕でいえば父が華族でお母様ズが庶子。破魔は逆に母が華族で父が庶子。佐手さんなんかは父も母も生粋の華族。
「名字も分からない庶子なんか、調べようがないです」
華族に絞れば影もちらつくだろう。そうじゃない一般人は、この国には一億人以上いる。尚更困ったことになる。ただでさえ薄い情報が、更に希釈される。
「ん?」
いくつか当時の記事を読んでみる。当時はそれなりに部員がいたようで、何通りかのペンネームが記事に添えられている。しかし、【お兄さま】を扱った記事だけは、同じ人間が担当していた。淡々とした文章なのに、【お兄さま】への愛が滲み出ている。
その人。『純白なるミスリル』。
……いかにもだなあ。というか、イタタ。若気の至りというやつだ。
「ねえ、破魔はこんなペンネームをどう思う?」
「中学生くらいが好きそうな名前にしてますね。ハマはそんな『精錬さ』を求めたようなネーミングセンスは嫌いです」
破魔が言わないでよ、と言いそうになったが口を紡ぐ。破魔のペンネームは、「逢魔ヶ破魔」だったりする。数十年後、もしも破魔と会うことができて、ペンネームの話題になったとき、破魔はきっと空を飛ぶ覚悟すらするだろう。僕はそれが楽しみで野放しにしている。
僕?「蛇威夜烏王」さ! タイヨウオウと読む。もちろん突っ込み待ちだけど、突っ込まれたことはない。悲しい。
「さてさてそんなことは置いておいて。あ、佐手佐手と表現すると興奮するよね」
「知らねえです」
「口が悪い! おのれ諫早め! こんないたいけな少女を毒牙にかけやがって!」
本格的に気分を切り替えて。この人物の正体はきっと。
僕は当時の名簿を確認してみた。すると、ぱっと見では気がつかなかったけれど、よくよく名前を確認してみると、覚えのある生徒を見つけた。
「ねえ破魔。ハクラ先生って、何歳か知ってる?」
「いいえ、知らないです」
「三十六歳だって」
「……三十六で、あの見た目ですか? というか、なんでいきなりハクラ先生を?」
「ここ」
名簿の加稲さんと同じクラスに、その名前が刻まれている。
「『白良銀世界』ですか。ああ、漢字ですから一瞬分かりにくいですけど、口にしてみれば。使用人とか言ってましたから、てっきりハマは、例外的に外部から採用した教師なのかとでも思ってました。OGなんですか」
アオナシには華族しか入れない。男というイレギュラーである諫早だって、華族ではあるのだ。そして教師のほとんどはアオナシの卒業生。つまり、教師は華族。なのにハクラ先生は、華族でないのにアオナシの生徒だった。
「ともかく、これは大きな情報だ。単なる使用人ではなく、同級生として、多くの時を過ごしてきたはず。なら、父親について一番近いのは、ハクラ先生となるだろうね」
僕らは、たったこれだけの情報を、やっと手に入れた。
「新聞部、活動開始ですか」
難しいことは、ハクラ先生に聞くだけ聞いてから考えればいい。




