↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/6

モンスターとの戦い

 樫の木の裏は、ひんやりと薄暗かった。

 幹に背中をつけると、ごつごつした樹皮の感触が、マント越しにも伝わってくる。


 木の向こう側から、キャタピラーの唸り声と、ティエタの悲鳴と、まゆになったスオヤラの「むぐー!」というくぐもった声が聞こえてくる。


 心臓が、どくどくと鳴っている。


 台所に立つお母さんの背中が浮かんだ。

 今の私をお母さんが見たら、どう思うだろう。

 いつも忙しいお母さん。でも、疲れた顔で笑ってくれるお母さん。


 ……お母さん。


 なぜこうなったかは分からないけど、私は今から、知らない世界の森の中で、尻文字をします。

 そうすると、火の魔法が出るそうです。

 そして、虫タイプのモンスターを倒します。


 意味が分からな過ぎて、ちょっと涙が出てきた。


 私は、袖で涙をぬぐう。泣いている場合ではない。

 カタカナでいいのだろうか。


「タイクオッタ・ジョカ・ポルッタ・トゥルタ」


 ――詳細は、省く。

 ただ、書き終えた瞬間、また、私の周りが暗くなり、ゆらりと影が立ち上がった。

 すると、背骨の付け根に、ボッ、と小さな太陽が生まれたみたいな熱が走った。それが背骨を駆け上がり、肩を抜け、目の前の空気に向かって、ごうっ、と噴き出した。


 炎だ。


 真っ赤な炎の渦が、立ち上がる。

 私は、不思議と熱くない。

 空気が揺らめいて、景色が溶ける。


 そして、樫の木の向こう側に飛んでいった。

 魔法は、成功した。


「あーーーー!!! いもむし様ーーーーー!」

「むぐむぐむぐーーーー!!!」


 ティエタの悲鳴が響く。

 

 樫の木の向こうでは、炎の中で、緑色の小さな体が、苦しそうにのたうっていた。


「あかり様!! 敵はあっちです!!!」


 ティエタが必死に叫んでいた。

 あっち。

 あっちって、どっち。


 木の裏に隠れていたから、私には、キャタピラーがどこにいるのかすら、見えていなかった。


 私は、木の陰から飛び出した。

 見えた。白いまゆになったスオヤラと、その向こうで、大あごをガチガチ鳴らしているキャタピラーが。


 ――隠れている場合じゃ、なかった。


「タイクオッタ・ジョカ・ポルッタ・トゥルタ!」


 今度は、キャタピラーを見ながら書いた。

 炎の渦が、一直線にキャタピラーを包みこんだ。


 ギシャアアア。


 断末魔が、森の空気を震わせる。

 焦げたにおいだけが、森に残った。


 私は走った。地面の上で、小さく丸まっている、いもむしのところへ。


 両手ですくい上げる。

 熱い。いつもひんやりしていたのに、熱い。つやつやだった若葉色の体が、ところどころ茶色く焦げている。


「いもむし! ねえ、いもむしってば!」


 動かない。

 私の手のひらの上で、あんなにちょこちょこ動いていた小さな体が、ぴくりとも動かない。


「はやく、町に行って、治療をしないと!」


 ティエタが、スオヤラのまゆを必死でほどく。


 まゆから顔だけ出したスオヤラが、「あかり様、ティエタ、先に行け!」と叫んだ。


「うん! ごめん!」


 私は、いもむしを胸に抱いて、走った。

 ティエタが道を教えてくれる。

 白樺の森が、後ろへ後ろへと流れていく。

 木漏れ日が、何度も何度も、私の顔の上を通り過ぎていく。


 私のせいだ。


 その言葉が、走っても走っても、ずっと後ろから追いかけてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。