冒険者ギルド
『暴食の迷宮』の最深部でコレステロール・ゴーレムを打ち倒し、迷宮を「24時間営業フィットネスジム」へと作り変えることに成功した豪たち一行。
彼らはその足で、当初の目的であった魔物襲撃の報告を行うため、隣の巨大都市『カロリア』へとやってきていた。
石畳の通りを抜け、一行が足を踏み入れたのは、街の中央に位置する巨大な木造建築――『冒険者ギルド本部』であった。
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「おお……! なんという活気、そしてむせ返るような男たちの汗と焼けた肉の匂い! 素晴らしい空間だな!」
豪が深く息を吸い込んで感動する通り、ギルドの1階に併設された酒場兼ロビーは、大勢の冒険者たちでごった返していた。
(*主人公はノーマルです。)
壁には無数の依頼書が貼られ、傷だらけの戦士や柄の悪い傭兵たちがジョッキを片手に大声で笑い合っている。
「……臭いわ。野蛮で汗臭くて、本当に最悪。早く報告を済ませて出ましょう。
あ、迷宮がジムになったことはややこしくなるから伏せておくわよ」
エルフのカタボリカは鼻をつまみ、心底嫌そうな顔をして受付へと向かっていった。
その後ろでは、ダンジョンでの激闘(筋トレ)を終えたばかりの二人の弟子が続く。
「はぁっ、はぁっ……! 師匠、ギルドに、到着しました……!」
美しい銀髪の女騎士クレアティナは、特大の大剣と豪の荷物(石ダンベル入り)の重さに耐えかねて、ふらふらと足元をよろめかせていた。
「うむ、よく頑張ったなクレアティナ! だが、お前はまだまだ線が細すぎる!
大剣の重さに振り回されてしまうぞ。まずは圧倒的に食べてバルクアップだ!」
「はいっ! 頑張って、太く、デカくなります!」
「し、師匠……僕、ダンジョンでのスクワットのせいで……激しい筋肉痛が……」
ダボダボのローブを着たマルトディアも、自身の巨大な杖に寄りかかるようにして生まれたての小鹿のように足を震わせていた。
肌は青白く、枯れ枝のように細い手足は相変わらずもやしっ子のままだ。
「気にするなマルトディア! その痛みは筋肉が成長しようとしている歓喜の産声(超回復)だ!
お前はまだ特訓を始めたばかりのハードゲイナー。これからあのジムでじっくり下半身を作っていけばいい!」
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「報告、終わったわよ」
受付での手続きを終えたカタボリカが、深刻な顔で戻ってきた。
「脂肪スライムや糖質ゴブリンの件、ギルド側も頭を抱えていたわ。
魔王軍が原因だと思ってたけど、実際は私たちが成行で攻略した『暴食の迷宮』が原因だったみたい……。
後なんであんなカロリーの高い魔物が異常発生したかの理由も分かったわ」
「ほう。なぜだ?」
「どうやらこの街を治める、『カロリー男爵』のせいよ……私も最近まで遠方に居たから知らなかったわ」
カタボリカが声を潜めると、隣のテーブルで飲んでいた隻眼のベテラン冒険者が、忌々しそうに口を挟んできた。
「嬢ちゃんの言う通りだ。あのクソデブ男爵()が、自分の食べる高級スイーツを大量生産させるために、よく分からん輩から貰った魔石を使って領地の魔力脈を無理やり弄りやがったんだ。
そのせいで迷宮の生態系が狂っちまったのさ。あんたらの活躍で迷宮が浄化されたなら、少しはマシになるだろうがな」
「なんと。領民の健康よりも己の食欲を優先するとは、言語道断だな」
「あぁ、だがそれだけじゃねえ。
あの男爵は『魔法こそ至高、汗を流す肉体労働者はゴミ』って公言しててな。
俺たちみたいな物理闘士の依頼報酬を不当に下げやがるんだ。おかげで街の冒険者は減る一方さ」
冒険者の言葉に、豪は眉をひそめた。
魔法偏重の社会構造、そして筋肉を蔑むでっぷり太った権力者。
豪の最も嫌いなタイプの人間である。
その時、下劣な笑い声と共に、豪奢なローブを着た三人の男たちが近づいてきた。
「おやぁ? 誰かと思えば、落ちこぼれ魔術師のマルトディアじゃないか。
また魔法の反動で吹き飛んで逃げ帰ってきたのかい?」
(あいつらはカロリー男爵お抱えのエリート魔術師だ、絡まれたら厄介だぞ)
ベテラン冒険者が小声で教えてくれた。
「……うぅっ」
マルトディアは杖を握りしめ、悔しそうに小さく身を縮めた。
先ほどのダンジョンでスクワット詠唱を成功させたとはいえ、まだまだ基礎体力がなく、エリートに言い返せるほど自分が強くないことを分かっているからだった。
エリート魔術師たちは、マルトディアの横にいるクレアティナと、むさ苦しい豪を見遣ってさらに鼻で笑った。
「ん?はっはっは! ただでさえ魔法の反動にも耐えられないもやしっ子が、今度は女騎士と、魔力もなさそうな筋肉バカのおっさんとパーティーを組んだのか?
落ちこぼれの寄せ集めとは、実に見苦しいな!」
男たちがゲラゲラと笑い声を上げる中、豪は静かに立ち上がる。
その背中からは、明らかな怒りのオーラ(と凄まじいバルク)が立ち昇っている。
しかし、豪はここで彼らを力任せに殴り飛ばすような野蛮な真似はしなかった。
「……な、なんだこのおっさん……ひっ!?」
豪がゆっくりと振り返り、極限まで鍛え抜かれた大胸筋と僧帽筋がギチリと音を立てて膨張する。
エリート魔術師たちは、息が詰まるほどの強烈な威圧感に顔を青ざめさせ、思わず後ずさった。
魔法の素養など微塵もないはずのただの筋肉。
それなのに、まるで巨大なドラゴンに睨まれたかのような本能的な恐怖に脚がすくむ。
「ち、チィッ! なんだこいつの不気味な威圧感は……! けっ、今日はこれくらいにしておいてやる!
落ちこぼれが変な奴らとつるんで調子に乗るなよ、マルトディア!」
冷や汗をダラダラと流しながら、魔術師たちは怯えたように捨て台詞を吐き、逃げるように酒場から立ち去っていった。
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「……状況はすべて理解した」
豪はエリート魔術師たちを一瞥もせず、二人の弟子を力強く見つめた。
「マルトディア、奴らに何を言われても気にするな。
お前たちはまだ未完成だが、俺のプロテインと筋トレを信じれば、必ず奴らを見返せる最強の肉体(器)が手に入る!」
「師匠……!」
豪は不敵な笑みを浮かべ、拳を握りしめた。
「よし!方針は決まったな。
あの傲慢な男爵とその取り巻きたちの鼻を明かし、正しいマッスルの概念を叩き込んでやる。
さあ、俺たちの拠点(24時間営業ジム)に戻るぞ!
奴らを圧倒するための、地獄の肉体改造合宿の開始だ!」
「ちょっと! また私の意見を無視して勝手に決めないでよ!」
カタボリカの悲鳴のようなツッコミを置き去りにし、未完成の弟子たちを引き連れた豪の、反撃に向けた過酷な強化合宿の幕が上がるのだった。




