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筋肉転生ー筋肉は裏切らないー  作者: 仁科異邦


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魔法の極意はスクワット


豪とカタボリカ、そして新たに一番弟子として加わった大剣の女騎士クレアティナ。


奇妙な三人組は、隣の巨大都市の近郊に位置する『暴食の迷宮』と呼ばれるダンジョンの入り口に到着していた。


「……ふんっ! はっ! 師匠、この特大リュックサックを背負った状態でのランジウォーク、大臀筋に恐ろしいほど効きますね!」


「うむ! その調子だクレアティナ。歩幅を少し広く取ることで、さらにハムストリングス(太もも裏)に刺激が入るぞ!」


「はいっ、師匠!!」

豪の背負っていた石ダンベル入りのリュックを喜んで担ぎ、嬉々として筋トレに励むクレアティナ。


その後ろを、疲労困憊のエルフが死んだ魚のような目で歩いていた。

「どうして……どうして暑苦しいのが二倍になってるのよ……。私の精神がもたないわ……」


カタボリカが絶望の呟きを漏らした、その時だった。

『ドゴォォォォォォンッ!!』

突然、迷宮の入り口付近で凄まじい爆発音が轟いた。


豪たちが駆けつけると、そこには黒焦げになって倒れる巨大な『脂身オーク』と、そこから十メートルほど離れた木の下で、白目を剥いて気絶している一人の少女の姿があった。


「おい、大丈夫か!」

豪が駆け寄ると、少女はダボダボのローブを身にまとい、自身の背丈よりもはるかに巨大な杖を握りしめていた。


肌は青白く、手足は枯れ枝のように細い。

見るからに不健康なもやしっ子だった。

「ひ、ひどい……魔物は倒したみたいだけど、女の子は死んじゃってるわ!」


カタボリカが悲鳴を上げるが、豪は少女の首元に指を当てて冷静に首を振った。


「いや、生きている。だが、極度のエネルギー枯渇状態(低血糖)だ。

それに、さっきの爆発魔法の反動に体が耐えきれず、後ろに吹き飛ばされて気絶したようだな」


「師匠、どうすれば!?」


「圧倒的にカロリーと基礎代謝が足りていない! クレアティナ、彼女の上半身を起こせ! カタボリカ、気道を確保しろ!」


豪はインベントリからシェイカーを取り出すと、手早く粉末と水を混ぜ合わせた。

「マルトデキストリン(吸収の早い糖質粉末)を多めに配合した、特製高カロリープロテインだ。飲めッ!!」


豪は気絶している少女の口に、容赦なくプロテインを流し込んだ。

「んぐっ!? げほっ、ごほっ……! あ、甘い……でも、力が……湧いてくる……!?」


少女はむせながらもプロテインを飲み干し、ゆっくりと目を開けた。

先ほどまでの青白い顔色に、ほんのりと赤みが戻っている。


「目が覚めたか。君の魔法の威力は素晴らしいが、それを支える『器(肉体)』が貧弱すぎる。ハードゲイナー(太りにくい体質)にも程があるぞ」


「あ、あなたは……?」

「俺は北枝豪。ただの筋肉を愛する旅人だ。君の名前は?」

少女は巨大な杖を引きずりながら、よろよろと立ち上がった。


「ぼ、僕はマルトディア……。究極の魔法を追い求める魔術師です。

でも、僕には体力がなくて……強力な魔法を撃つと、いつも反動で吹き飛んで気絶してしまうんです」


悔しそうに俯くマルトディアを見て、豪は腕を組み、深く頷いた。

「当然だ。大砲を撃つのに、土台がスポンジでは意味がない。お前には下半身の安定感が絶望的に欠けている!」


「下半身の……安定感?」

「そうだ! マルトディアよ、お前に魔法の極意を教えてやろう。杖を構え、足を肩幅に開け!」


豪の異様な迫力(圧)に押され、マルトディアは言われるがままに杖を構えた。

「そのまま腰を落とせ! 背筋は伸ばしたまま、太ももが地面と平行になるまでだ! そう、それがスクワットの基本姿勢だ!!」


「えっ!? こ、こういうことですか……? ぷるぷるします……」

細い足をガクガクと震わせるマルトディア。

「そうだ! その下半身の踏ん張りを維持したまま、魔法の詠唱をしてみろ!」


「ええっ!? わ、わかりました……! 『炎よ、集いて……爆ぜろ!』」

マルトディアの杖の先から、再び強烈な爆発魔法が放たれた。


ドゴォォォンッ!! と凄まじい反動が彼女の体を襲う。

いつもなら空の彼方へ吹き飛んでいるはずの衝撃。


しかし――マルトディアは、両足でしっかりと地面を踏みしめ、スクワットの姿勢のまま微動だにしていなかった。


「……えっ? ふ、吹き飛ばない……!? 腰を落とすだけで、超位魔法の反動に耐えられた!?」

自分の放った魔法の威力をしっかりと見届けたマルトディアは、感動で震え上がった。


「ふはは! 当然だ。すべての力の源は、強靭な下半身ベースから生み出されるのだからな!」


「流石です師匠! マルトディア殿の大腿四頭筋に、わずかですが力強いカットが見えました!」


「す、すごいです……! 僕、もっと下半身を鍛えます! 師匠、僕も弟子にしてください!」

マルトディアは巨大な杖を放り出し、クレアティナと並んで豪の足元にひざまずいた。


詠唱しながらスクワットをするという、異世界魔法の常識を覆す謎の戦闘スタイル(マッスル・マジック)が誕生した瞬間だった。


「よし、今日からお前も俺の弟子だ! まずは飯を食ってバルクアップから始めるぞ!」


「はいっ、師匠!!」

「ありがとうございます、師匠!!」

スクワットの姿勢のまま目を輝かせるガリガリの少女と、大剣を背負ってランジウォークを続ける女騎士。


そして、サイドチェストで二人を褒め称えるおっさん。

「ちょっと待って……お願いだから、これ以上この可愛い子を汚さないでぇぇっ!」


狂気の光景を前に、エルフのカタボリカはただ一人、ダンジョンの入り口で絶望の涙を流すのだった。


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