憧れ
(一か月後には、この都の学園の生徒にわたしもなるのか~)
自分の暮らしていた村とは天と地ほども違う都の大きさ、発展具合に驚きながら、ミーアはこれから始まる新しい生活にワクワクしていた。
ミーアは一か月後、この都の中心にある王立学園の生徒になる。
この学園にはこの国に住む者なら誰もが知っている【姫騎士】の『白銀の剣』があり、そして、その姫騎士を生み出すことを目的としている。
そこには貴族しか入れないが一部例外がある。異常な魔力や、変わった魔法に偶然目覚めた平民も入ることが出来るのだ。
ミーアもまた、その『変わった平民』の一人だった。
ミーアは、村を訪れた王宮の魔法使いに、遊び程度に魔法を教えてもらった。すると、強力な『無色』の魔法を発することが出来てしまったのだ。
魔法を使うものは、基本四属性か、光と闇の合計六属性のどれかの色になる。しかし、無色という例は今までなかった。王宮の魔法使いは、ミーアを学園に入学するよう説得し始め、ミーア自身も、良い職につけて母親を楽にさせてあげられるならと学園で学ぶことを決めた。
そうして、ミーアは村を出て今は都に暮らす知り合いの所に昨日から泊めてもらって、入学に向けて準備をしている。
勿論、貴族ばかりで不安は大きいが、それ以上に何か大きなことが起こりそうな予感がして本当に楽しみだった。
(素敵な人とも、出会えると良いなあ)
ミーアは物語の王子様に憧れがある。もしかしたら、学園でという期待も持っていた。
でも、自分なんかが……でも、万が一……でも……と桃色髪をぶんぶんと振りながら、ひとりきゃーと騒いでいた。
と、その時。
どかんという耳が潰れそうなくらいの大きな爆発音が飛び込んできた。
慌ててミーアがその方向を見ると、建物が崩れ、中から火傷をした人たちが這いずって出ようとしていた。
「我々は! 王国に反旗を翻すもの! この店は、ある不正貴族の店であり、天に代わり、俺たちが制裁を加えた! さあ! 国に不満を持つ同志たちよ! 立ち上がる時が来た!」
火傷をした人たちから少し離れた建物の裏側から、武具を身に纏った反乱軍の男たちが現れる。
男たちが呼びかける中、ミーアはその横を駆け抜け、火傷した人たちの元に辿り着く。
「あ、あんた……」
「……い、今、直しますから」
ミーアは王宮の魔法使いに教えてもらった治癒魔法をかけ始める。
その様子を見た反乱軍のその部隊の長らしき男は舌打ちをし、ミーアに近づく。
「おい! 女! その男は不正貴族に仕える裏切り者だ! 直す必要などない」
「黙っててください……私、まだ勉強中で集中しないとうまく出来ないんです」
ミーアは、火傷した男から一瞬たりとも目を離さず魔法を使い続けた。
「なるほど……お前も、この国に愚かに従う者か。なら、お前にも罰を加えよう」
しゃり、と刃が擦れる音がする。
怖い。
でも、負けない。
私も『助ける人』になりたいから!
ミーアが学園に来た理由は母を助ける為、そして、王子様を一目見る為だった。
しかし、今はもう一つ。
王宮の魔法使いに教えてもらった『姉妹』に会いたかった。
なんでも、姉は一年生にして、誰よりも強く美しく、そして、強きをくじき弱きを助ける英雄のような女性だと。彼女に助けられた弱い立場の人間は数えきれないほどだと。そんな姉を持つ妹も凄かった。自分たちの持つ領地をたった一年で見違えるほど豊かにしたらしい。実は、その領地の中にミーアの村もあった。確かに、いつの間にか、村に貴族様から贈り物が届くようになった。農具や食料で、村の人は皆感謝したし、それにより、みんなの生活が楽になった。ミーアの母の笑顔も増えた。妹もまた村の人間からすれば救世主様だった。しかもミーアよりも幼いらしい。学園に行けばその姉妹に会える。姉は一つ上の学年に在籍していて、妹はなんと特例で今年入学するらしい。
聞けば聞くほど、物語の登場人物のような二人だった。そして、その二人は本当にいるのだ。
二人に会いたい。二人みたいになりたい。
ミーアは、その為にうんと勉強をした。魔法の練習もした。剣もやってみた。
そのどれもが大変で、その姉妹はどれほどの努力をしたのかミーアには想像もつかず、ただただ尊敬の思いが大きくなっていった。
(ここで逃げて、生き延びても、私は、もう会えない! 胸を張って会えない! だから、死んでも、逃げない!)
ミーアは、涙を零し、震える唇を噛みしめながら、魔法を使い続けた。
「皆、よく見ておけ! 愚か者の末路を!」
男は、剣を高く掲げる。その剣の影がミーアの視界にも入る。
(ごめん、お母さん)
「〈一片の風花〉」
その瞬間。風が吹き抜け……剣の影が高く舞い上がった。
そして、がちゃという剣の音、どさりという何かが倒れる音、男のうめき声が背中から聞こえた。
ミーアは思わず顔を上げた。
そこには、小さな女の子がいた。
こちらを指さし、その指先には眩いほどの緑色の光が灯っていた。
息を切らし、汗をかき、大きな瞳をぎゅっと真ん中に寄せ、美しいふんわりとした金色の髪が乱れることも厭わず、正面を見据えていた。
「王子様……」
ミーアは、そうつぶやいていた。勿論、少女であることは分かっていた。けれど、ミーアの憧れる強さがそこにあった。
(あの子は、もしかして……)
少し遠くにいるその少女は、大きく息を吐き、顔を上げ、後ろを向いて叫んだ。
「なんで、あんたは! 一年も都に居て迷子になれるの!? 信じらんない!」
「うえええん、ごめんって~ねえちゃ~ん。あの道なら近道できる気がして~」
「あとでさっきぶつかった人たちにも謝りに行くよ! だから、早くあっち行って助けてきなさい!」
「は~い……ごめんねえ……ねえちゃん……」
「もう怒ってないから。早く。がんばりなさいよ」
後ろからやってきた泣き顔の、泣き顔がびっくりするくらい凛々しい女性をしかりつけ、少女は再びミーアを見た。
「大丈夫?」
「あ、あ、はい。大丈夫、です」
「なんでこんな小さい子に敬語? おかしい。でも、偉かったね。この人治療してたのね」
少女はくすりと笑うと、悪戯っ子のような目を向けたかと思うと、聖女のような眼差しでミーアを見つめ、優しく頭を撫でた。
「怖かったね。でも、もう大丈夫」
ミーアは、身体がぶるぶると震えだし、一気に涙が溢れてきた。
怖かった。怖かった。死ぬかと思った。
たった一言。少女の一言で思い出し、そして、救われた気がした。
少女が優しく微笑むと、ミーアは顔を真っ赤にして、ただ俯いた。
それをまた笑うと、少女は、すっと立ち、その先にいる男たちに向かって歩き出した。
「さて、と、こんな可愛い子を泣かした馬鹿どもは、このコルネリアがぼっこぼこにこらしめてあげるわ」
お読みくださりありがとうございます。
楽しいだけで書いています! が、もし同じように楽しんでいただけているならば、嬉しいです!
あと多分5話です!終わらせます!
また、ブックマーク登録や評価してくださった方ありがとうございます。
少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。
よければ、☆評価もしていただけるとなお有難いです……。




