「その4 イシダ」
力強くドアを叩く騒音により、俺は目を覚ました。
窓の外を見ると、太陽が傾きかけている。
どうやら午後4時30分は、とっくに過ぎてしまっていたようだ。
俺も相当疲れていたんだろう。
当たり前だ。
あれだけの大惨事に巻き込まれ、最悪の乗り心地の車に何時間も揺られて、ここまで来たんだから。
「兄ちゃん、だいじょぶか!?生きてるか!? 集合場所、来なかったじゃねーか!」
例の日本人のオッサンの声だ。
やっと頭が働き出した俺は、急いでドアを開けた。
「すんません……。すっかり寝ちゃってたみたいで……。」
「おー、生きてたか。良かった。無事ならいいんだ、相当疲れてる様子だったしな。」
「心配かけちゃったみたいっすね、すんません。」
「いいんだ、いいんだ。結局、大した話とかもなかったし。……そうだな。内容を伝えるがてら、夕飯でも一緒にどうだい?近くの良い店とか、聞いといたからよ!」
「あー、助かります。じゃ、是非、お願いします。」
俺としても、このオッサンがアレな人なので怖かった部分もあったが、この異国の地で唯一頼れる存在でもあったので、ここはお言葉に甘えて同行させてもらうこととした。
俺は、急いで顔を洗うと、オッサンとともに恐る恐る町に繰り出した。
俺とオッサンは、なんだか反転したような奇妙な漢字が書かれた看板のある、薄暗い雰囲気ではあるものの、この辺にしては多少の高級感があるレストランに入った。
なんかよく分からん香草の匂いと辛い味付けの肉料理を食べ、酒を交わしながら、オッサンから聞き取った話は概ね以下のとおりである。
今回のサバゲーの目的は、ミュータントの過激派組織である「拡界戦線」の掃討にあること。
したがって、ジープに乗って来たメンバー同士は全員味方であること。
3日後に、本格的なサバゲー・エリアにジープで乗り込んで行く予定であること。
その際、武器が支給される予定であること。
それまでは、自由時間であること。
オッサンは、イシダという名前であること。
一通りの料理を食べ終わると、イシダさんが、女の子のいる店にでも行って一杯やろうや、戦いに女は付きものだ、などと言って、もう一軒飲みに行こうと言う。
俺の方は、ひと眠りしたものの疲れが抜けておらず、あまり気乗りがしなかったが、イシダさんにはいろいろと気にかけてもらっていることもあり、もう一杯程度ならと付き合うことにした。
夕飯を食べたレストランからそれほど離れていないところに、これまた、汚いながらもそれなりに高級感のある飲み屋……。
ぃゃ、キャバクラとでも言うべきか。
そんな店があって、イシダさんの決定でそこに入ることになった。
それぞれに1人ずつ、なかなか可愛い女の子がついて、予想よりもちょっと多めに酒を飲んでしまった。
その後、イシダさんは、店のママのような初老の女性に声をかけると、結構な金を払って、その2人の女の子を店外にまで連れ出して来た。
イシダさん、相当金持ちなのね、うらやましい。
俺のほうはかなり断ったのだが、結局、4人でホテルに戻って来ることになり。
女の子と2人で部屋に消えていったイシダさんを見送ると、やむを得ず、残った女の子とともに、俺の部屋に戻った。
俺は、部屋の冷蔵庫にあった缶ビールを開けて、ベッドの隅っこに座ったその可愛い女の子と会話を試みたが、言葉がほとんど通じなくて、話しているのもなんとなく恥ずかしくなり。
少しのお金を握らせると、そのまま帰らせた。
その夜は何故か目が冴えてしまい、眠りについたのは、おそらく明け方頃だろう。
再び目覚めた頃には、既に午後になっていた。
俺は、ドタバタの中で、結局、バスからウェストポーチ以外の荷物を持ち出せておらず(他の乗客たちも、脱出した後、再びバスの中に戻って荷物を探し出した者は少なかったようだ)、着替えに困ったので、来ていた洋服を風呂場でテキトーに洗い、風通しの良いところに干した。
そうこうしていると夕方になり、またイシダさんが夕飯を誘いに来たので、半乾きの服を着て、一緒に町に出た。
昨晩と似たような店で夕飯を喰い終わると、イシダさんは、昨晩の店よりも沢山の女がいる良い売春の店があるらしいから一緒に行こうと誘ってきた。
俺の方は、異国の地で緊張しきってるし、やっぱり疲れも抜けてないし、何より、いわゆる性病とかも怖いので、「疲れてるので、先に帰ります」と丁重に断ることにする。
昨晩みたいに、何もすることなく女の子を帰らせる作業もめんどくさ過ぎる。
だが、その後も、かなりしつこく誘われ、結局、その売春宿だかキャバクラだかの集合体のような場所まで同行させられたが、俺があんまり嫌がるので、最後はイシダさんも諦めたようで、黒いハンドガンを1丁、手渡してくれた。
「ホテルまでそんなに遠くないだろうが、107人までぶっ殺してもいいなんていう町だ。夜に一人で歩くのも危ねーだろ。コイツを持ってけ。中身はゴム弾だから安心しな。でも、当たり所が悪けりゃ、骨折くらいじゃすまねー代物だけどな♪」
「……なるほど。そうですね。何があるか分かんないですし、お借りしときますね。ありがとうございます。」
俺も、正直、ちょっと怖かったので、素直に借りておくことにする。
この町に来て、まだ2日目。
ほとんど外にも出歩いてない。
はっきり言って、未知過ぎるぜ。
「それと、兄ちゃん。こっちも。」
と言って、イシダさんが手渡してきたのは、刃渡り12cmほどはあるだろう、結構なファイティングナイフだった。
「ゲームじゃ済まない相手に襲われたときのためだ。念のため、持っていきな。」
俺は一瞬迷ったが、実弾拳銃というわけでもなし。
ナイフくらいは護身用に借りておくのも悪くないだろうと思い、こちらも素直に借りることにした。
簡易な鞘をベルトで腰に固定して、その上から上着を着て軽く隠す。
そのままイシダさんは派手なネオンの店の中に消えていったので、俺は、ひとり、歩いて来た道をホテルのほうへ戻ることにした。




