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そんなに僕を殺さないで  作者: 立派な人
8/8

「その5 初戦」(1)

道々、スマホの電波を確認してみたが、こんな町中にもかかわらず、相変わらず圏外の表示である。

両親には悪いが、連絡のしようがないのだからしょうがない。



人通りの多い道も、少ない道も、等しくとにかく薄暗い。

日本の街灯がいかに明るく、優れているのか、よく分かる。


それに、すぐに破壊されたりでもするのだろうか?

街灯は透明なガラスで覆われているのではなく、細いスリットが入った金属で包まれている形状のようだ。

これでは、光量も制限されて、ますます薄暗くなるわけだ。



だが、こんなに薄暗い町なのに、幼い子供たちも含めて、大量の人間が、平気で道のあちこちでしゃべったり、座り込んだり、酒を飲んでたりしてるので、非常に違和感がある。

この違和感が、かえって、この町の混沌とした力強さを肌身で感じさせる。


それにきっと、この大量の人間の中には、何人ものミュータントも混ざっているのだろうと思う。



――――― あれ?迷ったかな?



ただでさえ薄暗いのに、いつの間にか、さらに暗く、人通りのない路地っぽいところに辿り着いてしまった。

仕方なく引き返そうとすると、何か腐乱臭のような強烈な臭いが鼻を衝いた。


すぐ眼前の暗闇の中に、おそらく井戸か何かのようなものがある。

その陰に、何かが動いているような気配があった。


俺は、ウェストポーチからスマホを取り出し、液晶を起動して懐中電灯代わりにそちらを照らしてみる。



良く見えないが、何かが地面で微妙に動いている。



地面に落ちているのは、猫の死骸だった。

死後、結構経っているのではないだろうか。

毛並みがバサバサになっており、腐乱した肌が所々に露出しているように見えた。



それを貪り喰っている“もの”がいる。



何かは分からない。

だが、その動きは極めてぎこちなく、醜いように見える。



瞬間、俺はスマホを持っていた右手を、ぐにゃりとした、それでいて相応に重量感のある、棒のようなもので打ち払われた。

勢い、俺のスマホは、井戸のようなものの向こうの地面に飛ばされてしまう。



猫の死骸を貪り喰っていた“もの”は、こちらに気付くと、変な物音を発しながら立ち上がった。



――――― あぁぁぁぁうぅぅぅ……



少し人間の声にも似た音だったが、到底言葉には聞こえない。

薄暗い街灯の光に照らし出されたそれは、確かに人間のような姿をして、2本足で立っていたが、人間などでは決してない“もの”だった。


身体の大きさに比べて極めて小さい右腕のようなものと、ちょうど人間の左手首から先を切り落としたような大きさ・形状の左腕のようなものが付いているが、両足は膝から上が癒着してしまったような形状で、膝から下だけでヨチヨチ歩いているような感じである。

身長は140cmほどだろうか?


服に相当するものを一切身に付けておらず、全身の肌色の皮膚がすべて剥き出しである。

それなのに、体毛や乳首、ヘソ、そして、性器と言うべき部分が一切見当たらない。


ひたすらのっぺりしている。

そう表現するのが分かりやすいだろう。



だが、何より人間との決定的な違いを感じさせるのは、頭部に相当すると思われる部分である。

目も鼻も耳も頭髪も一切なく、多分、口と思われるような穴が1つだけ、ぽっかりと開いているだけであった。

その穴から、おそらく猫の腐肉の断片か何かだろう。

小さいボロ布のようなものがはみ出している。



ミュータントなのか?

それとも単なる怪物か?

それとも、逆に人間なのか?



俺は、ガクガクと震える膝を抑えることができないでいる。



猫の死骸を貪っていた“もの”は、あぁぁぁぁうぅぅぅ……という声にならない音を発しながら、ヨチヨチとこちらに向かって歩いてくる。



ぃゃ、マジ、キモイから。

これ、絶対無理だから!


俺は一目散に逃げ出そうとしたが、叩き落とされたスマホが向こうの地面に転がっていることを思い出す。


圏外続きのスマホであるが、俺が両親や日本側と連絡を取れる可能性のある唯一の機器だ。

このまま、おめおめと捨て置くわけにはいかない。



考えている余裕はない。



俺は、あのバス事故の時、覚悟したはずだ。



理不尽な破壊にも、死の運命にも、運任せの生命にも、タイマン勝負を挑むんだと。


負けることもあるだろう。

だけど、勝つこともあるだろう。


勝てる状況なのに自分の愚かさで負けてしまった……なんて事態だけは、絶対に防いでやる。



そして、俺は覚悟したはずだ。

俺が死んだら悲しんでくれる人たちへの感謝も謝罪も。



俺は、この世のものとも思えない怪物とわずか1m程度の距離において、1つのルールに辿り着いた。



――――― 迷ったら、切り拓くほうを選択する。



俺は、オッサンから借りたハンドガンを素早く取り出し、ガムシャラに両手で構えると、迷わず引き金を引いた。



いや……、引けなかった。



瞬間、俺は本能的に後ろに飛び退き、“もの”との距離をとる。


これが安全装置ってヤツか。

ったく、お約束だな~。



俺は、ハンドガンを素早く観察して、それっぽい部品をアンロックする。


これで撃てるはずだ。



再び、両手でハンドガンを構えると、容赦なく“もの”に向けて引き金を引く。



スパンッッッ!!!!!!!



うっわ!???

えー!?むっちゃくちゃデカい音なんすけど!?

鼓膜、破れたんじゃね?

もぅ、完全にツー……しか聞こえねーよ!


しかも、なに!?

この反動!!?

危ねー!片手で撃ったりしてたら、ハンドガンがどっかに吹っ飛んでたんじゃないか?

念のため、両手でしっかり握っといてよかった~。



飛び出した薬莢が地面に転がる金属音がわずかに響く。

というか、耳鳴りが激しい俺にはわずかにしか聞こえない。



銃弾は、迫りくる“もの”の左肩付近に命中したようで、その“もの”は、その威力に大きくのけ反り、バランスを崩している。



命中した!

こんな恐ろしい破壊力が、相手に命中したのだ。

サバゲーで言えば「ヒット」。



俺は、急いで右腕の腕輪を確認してみる。

カウンターは「108」のまま。


これではヒットとしてカウントされないのか。

それとも何らかの申告作業が必要なのか。

はたまた、こんな化け物みたいなヤツを撃ったところで関係ないのか。



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