「その1 サバゲー・ツアー」
その車は「ジープ」と呼ばれていた。
レトロなRV車の後ろを長く伸ばしたような車両で、運転席周辺を除き、進行方向と平行する向きで向かい合った長椅子のような座席があるだけだ。
俺もその一画に座っている。
俺が乗っている車両のほかに、もう2台が後ろに続いて来ているが、いずれもワケの分からんステッカーやら看板やらが大量に貼り付けられていて。
いかにも定員オーバーで走ってそうな、個人営業の乗り合いバスっぽい車である。
もはや荷台とも言うべき乗客搭乗部分に、窓ガラスはない。
極めて荒い鉄パイプの格子が申し訳程度に設置されているだけである。
車体の後部に乗客が乗り降りする出入り口があるが、当然、ドアなど存在せず、いつでも自由に出入りできる状況である。
悪路を走る振動で乗客が落っこちたらどーすんの?とか思う。
さっきのバス以上に、路面の凹凸がダイレクトにケツに伝わってくる長椅子の性能に対して大いに苛立ちを覚えつつ、周囲の人間たちを眺める。
いかにも東南アジアっぽい感じの男たちが、種類は違えど、皆、大きなライフル銃を携えている。
服装のほうはマチマチで、上半身裸の者もいれば、袖を捲ったワイシャツを着ている者もいる。
だが、概ね、Gパンのような丈夫なズボンを履いているのは共通した特徴と言えよう。
ジープには、1台につき20人近くが乗っているようだ。
ほとんどは、俺たちサバゲー・ツアーの参加者、つまりは横転したバスの乗客たちの救助に来た男たちだ。
ツアー参加者は、結局8名のみ残ったようだ。
残りは死んだか、怪我でリタイアして病院のある街のほうへ戻っていったらしい。
もちろん、隣に座ってた白人の巨漢オッサンは、ツアー継続組の8名には残っていない。
本当に死んだのかどうかは知らんが、まぁ、気にしても仕方ないし。
ちなみに、運転手はシートベルトをしていてそれほど大怪我をしなかったみたいだが、つたない英語で何とか聞き取ったところによれば、運転手と口論していたツアーガイドの男は割れた窓から車外に放り出されて死んだとのことだった。
運悪く首からまともに地面に叩き付けられたらしく、運ばれていく死体をそっと覗き込んでみたら、首の一部が割けてしまうほどひん曲がった状態だった。
あー、恐ろしい。
俺も失敗してたら、あんなになってたかも知れんわけね。
事故現場ではライトアップされたところを除いて非常に暗く、周囲の状況がよく分からなかったが、どうやら、ツアー継続組は、全員、俺と同じジープに乗せられたようだ。
こんな大事故の後にも旅程が続行されるというのだから、ひたすら根性の入った旅行会社だなと思わざるを得ない。
事故現場から既に数時間以上もジープに揺られ続け、ケツはとっくに痔になり(嘘)、既に朝日が結構な高さまで昇っている。
ジープの車内も明るくなり、一緒に乗り合わせている者たちの容姿もそれなりに確認できるようになってきた。
驚くことに、こんな最悪の乗り心地の中、結構、眠っている連中が多いのに気付く。
ぃゃ、これ無理っしょ。
寝れないっしょ、こんなんで。
寝たら座席から振り落とされるでしょ、いや、マジで。
――――― 兄ちゃん、眠れないの?
俺は、突然、聞こえてくるはずもない日本語を耳にして、思わず「ふぇっ!?」という間抜けな声を上げてしまった。
周囲を見回すが、日本人らしき人物は見当たらない。
だが、1人。
俺の顔をまっすぐ見ている人物がいた。
レンズの上半分に茶色が入った眼鏡というか、サングラスというか……、をかけて、年齢にしたら40代半ばくらいだろうか?
麦わら帽子に口ひげが少しある、中肉中背の男だった。
麻の短パンに薄汚れたシャツ。
日焼けした肌。
正直、何も言われなければ現地人と間違えてしまう。
「日本人の方っすか?」
俺は、その人物以外に俺に話しかけたであろう感じのヤツがいなかったので、おそるおそる質問する。
「おー、やっぱり日本人か。まぁ、お互い、こんなテキトーな服とか着てると、日本人だか、現地人だか、何人だかなんて、全然分からんわな。で、サバゲー・ツアーの参加者かい?」
「はい、そうです。あなたも?」
「おー、そうよ。まー、俺の場合、主催会社の社長と旧知の仲で、特別枠の参加みたいな感じだけどね。いや、しかし、驚いたよなー!あれは陸走型要塞の地対地光学式ミサイルか何かかね?あんなデカイのをテキトーにばら撒きやがって、何考えてんだ、ヤツらは!?」
「あー、俺、兵器とか全然詳しくないんで、分からないっす。でも、ほんとに死ぬかと思ったっす。」
「だよなー。主催会社のほうに文句言ってやるよ、ったく。安全管理はどーなってんだ!ってなー!? まー、でも、ハラハラして楽しかったよな?下手なサバゲーなんかより、よっぽど熱かったってな!?ガハハハ!」
オッサンの豪快な笑い声で、隣の現地人兵士っぽい男が少し目を覚まして、またすぐに眠り込んだ。
ワイルドだな……、マジで。
それから、オッサンが、温くなった缶コーラとよく分からん味のないパンをくれたので、とりあえずそれを食べながら、サバゲー会場の町へ到着するまでの最悪の旅路を我慢することにした。




