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そんなに僕を殺さないで  作者: 立派な人
3/8

「プロローグ 紅の光線」(3)

バス内の状況を確認。

俺から見える範囲では、他の乗客でその光線に注目しているヤツはいないように感じる。

前方の運転手とツアーガイドは、相変わらず口論してるかのような様子で話し合ってるようだが、俺の視界の右のほう、つまりバスの後方側に止まっているこの光線には全く気付いていないだろう。


乗客は座席数の6~7割程度。

合計で30名前後だろうか?

サバゲー・ツアーということで、基本的に屈強な男が多い感じだが、無関係の乗客なのか何なのか。

子ども連れのアジア系の女性やら、ちょっとした老夫婦やらも混じっている。

こんな大地で何をしよーとゆーのやら。



俺は、準備したウェストポーチをしっかりと腰に装着する。

そして、中から滑り止め付きの厚手の軍手を取り出して、しっかりと両手にはめる。

シートベルトを再度確認し、両腕を前の座席にくっ付けて、さらに、そこに頭をくっ付ける。

衝撃に備える態勢。

準備万端だ。



こんな準備では抗うことのできない理不尽な破壊が迫っているかもしれないんだけどね。



深呼吸をして、冷静になろう。


死ぬのも覚悟しておこう。


未だ全く現実的ではないが、この確かな恐怖感が、日本に置いて来た不快な出来事を俺の心から洗い流してくれるようで、何とも気分がいい。



生きることに未練がないかとゆーと、多分、むちゃくちゃある。


両親のことは好きだし、飼ってる犬に至っては愛していると言っても過言じゃないっす。

自分の将来にだって、完全に失望してるよーなわけでもない。



だが、それが何だ?


俺が死んだら悲しんでくれる人たちへ。

ありがとう。

それに、本当にごめんなさい。



でも、俺は、恐怖や痛みに飲み込まれて、ワケも分からず悲惨に死滅したりはしないよ。

最後まで、見て、聞いて、考えて、行動する。


これは、理不尽な破壊との、死の運命との、運任せの生命との、タイマン勝負だ。

負けることもあるだろう。

だけど、勝つこともあるだろう。


勝てる状況なのに自分の愚かさで負けてしまった……なんて事態だけは、絶対に防いでやる。



窓の外。

止まったかのように真っ直ぐにこちらを見つめている紅の光線。

俺のこの生命を賭けた勝負の相手としては、不足なかろーさ。



俺は満足しているぜ。



その紅の光線は、わずかに上側に伸び始める。



さて、どーなるかな♪



なお、隣のオッサンは、相変わらず、ヘッドホンで爆睡中。

アホか?


なんて偉そうに言ってるが、俺だって。

どんなに強がったって、流れる冷たい汗と心臓の鼓動は隠せんな~。

いや、普通、やっぱ怖いっしょ、これ?



俺は衝撃に備える姿勢のままで少しだけ首を動かし、残りは目を動かすだけで窓の外を見る。

紅の光線の伸びるスピードが確実に速くなっている。



バスが悪路を走る騒音で外の音はほとんどよく分からないが、単なる振動音やエンジン音だけではない。

不気味な轟音が混じり始めている。



近い?



俺は目だけで空を見上げて、完全に固まった。


心臓が握り潰されるよーだ。



速い!

紅い光線が一瞬で巨大になり、バスの上空をすべて紅に染め上げた。



そして、世界が強烈な純白の光に包まれた。



それを感じた瞬間、既にバスの車内はミキサーの中のようになっていた。

というか、画像がぐちゃぐちゃで何が何だか分からない。


身体にかかる強大な力と轟音。



あー、懐かしい。

小学校5年生の時に経験したあの感じ。



何か重い物が俺の頭や脇腹にぶつかったようにも思われたが、幸い、鋭いものではなさそうだ。

その後も、身体中に強い圧力と鈍痛が響く。



純白の光は一瞬で、あとは完全な闇。



速く終わってくれ。

目を強く閉じてひたすら身体を固めるのみ。



あー、死ぬから。

これ、マジ死ぬから。



……あれ?止まった?

車体はどーなった?

俺は生きてるのか?


身体はどれだけ損傷したのか?



急ぎ目を開けて状況を確認する。

身体がシートベルトに固定されているが、やたらと左側に引っ張られるので、バスはどうやら左側の側面を下にして倒れているようだ。


俺、ラッキー。

逆だったら、つまり、右側の側面が下になっていたら、あの白人デブのオッサンに潰されてたんじゃないか?


オッサンがどこにいるか確認したかったが、車内はほとんど真っ暗闇で、どーなってるのか分からない。



危険があるか分からないが、真っ暗な車内を安全に歩けるのか分からんし、右側の窓から脱出を試みようと思う。

今は「上側」と言うべきか?



身体は、首が結構痛むし、腕にも変な鈍痛が走るが、動くことに支障はなさそうだ。


俺は運がいい。

こんな事故で2度も普通に生き残ったんだから。

俺ってば、出来る子なのね♪



だが、この先も安全かどうかは分からない。

さらなる紅の光線が向かってくる可能性は十分にある。


右側の窓は何とか開きそうなので、シートベルトと肘置きに支えられた身体を上手に安定させて、軍手をはめておいた両手でスライドさせて開く。


そして、肘置きがそれなりに俺の体重に耐えられる強度があるかを確認した上で、暗くてよく分からないが、前のシートの脚か何かに足を乗っけて安定させ、シートベルトのボタンを押して外す。

身体が安定していることを再度確認し、一気に上へ向けて窓から車外に飛び出した。



上空はほとんど真っ暗闇だが、遠く、紅の光線たちが作り出す光の網の影響を受けて、ほんのり赤みがかっている。


着弾は、どうやらバスから結構離れたところにあったらしい。

道路からかなり遠いところと思われる辺りに、炎が立ち上っている。

きっと、強烈な爆風を受けて、走行中のバスが横転し、錐揉み状に回転しながら路面を滑って、この状態となったのだろう。



とにかく化学物質臭いというか、変なゴムだか何だかが焼けるような臭いで頭が痛くなりそうだ。

ガソリンの臭いもある。


呻き声や怒号が車内から聞こえてくるが、日本語じゃないからよく分からん。

脱出してきた窓から覗き込んでみるが、やはり暗くて何も見えない。



だが、突然、周囲がフラッシュした。

ある程度、近くで着弾したか?


その一瞬の光が、わずかながら車内の光景を残像として残してくれた。


バスの車内は荷物だか部品だか何だか分からんものが大量に散乱したような感じで、一瞬の画像では何が何だか分からない。

だが、手足が生えた巨大な白いボールのような塊が、一番下のほうにあった。


それは赤い中身を曝け出して、破裂してるよーにも思われた。


正確には分からない。

だが、俺は結論付けた。



はい、オッサン死亡確定。



その時、ちょうどBGMかのように、周囲に爆音が響いた。

きっとさっきのフラッシュの着弾の音だろう。

よくもまぁ、こんなにバカデカい音が出るもんだ。


デブのオッサンへ。

さっき「死んで」とか思ってごめん。


ぃゃ、嘘。

謝るつもりないから。

てへぺろ♪



それはさておき、生きてる人間のうち何人かは、既に上手に車外に脱出したようだ。

とはいえ、それも音なり気配なりで何とか分かる程度で、ここからは暗くてよく見えん。


なお、俺のように上側、つまりバスの右側面側に脱出した者は、今のところいないようだ。



いつまでもこんなところに立ってるのは、何となく危険な気がする。


というわけで、俺は、急いでバスの後ろ側のほうに進んで行き、そこから、歪んだバンパーのでっぱりなんかを伝って、地面に下りた。


そして、急いで走ってバスから離れる。

境界線のこちら側である以上、このバスが意図的に兵器の的にされることは多分ないと思う。

加えて、バスが爆発するよーなこともないかもしれん……が、言葉が通じないヤツらがほとんどだろうし、なんか厄介ごとに巻き込まれても嫌だ。



だからと言って、こんな大地の真中を一人で町まで徒歩で進んで行くことも不可能だろうな。

そのうち救助も来るだろーから、バスからあまり離れてしまうのは危険だ。

置いてけぼりだけはマジ勘弁。



俺は、バスから少し離れたところにある岩を見つけ、そこの影に座り込んだ。


どうやら強烈な耳鳴りがしていたことに今さら気付くが、まー仕方あるまい。


ここでやっと深いため息をひとつ。



良かったな。

生き残れた。



死ぬ覚悟はしたつもりだったけど、生きてるに越したことはあるまい。

多分。



バスの周囲には、多少の人の気配が感じられる。

それも多くはないように思うので、おそらく10人前後だろうか。

英語っぽいのも多少聞こえるが、英語じゃないワケ分からん言葉も聞こえる。

いずれにせよ、離れてしまっているので、ほとんど聞き取れないわけだが。



俺の存在に気付く者もいないまま。

何時間、待っただろうか。

きっともう深夜だろう。

いつの間にか、遠い夜空を覆っていた紅い光の網も消え去っていた。



漆黒の大地の中を、1台のライトバンがやって来た。

その後、ポツポツと数台の車もやって来る。

なんか青くテカテカ光ってるヤツは、救急車か何かだろうか。



そして、バスの乗客の救助が始まった。



これでプロローグは終わりです。

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