一六
翌日、南風さんは学校を欠席した。
綾垣担任によると、今朝方、『体調不良のため休みます』との連絡があったそうである。無断欠席でないのは朗報だったが、心配の種はつきない。
「お嬢ってば、よっぽどショックだったのかなあ。まあ、あんな一生懸命猫かぶりまくってたわけだし、そりゃあダメージおっきいよね。いまごろ、枕に顔をうずめておいおい泣いてるのかしら……」
帰りのホームルームが終わると、美樹原がだるそうに首をまわしながら、放言する。
「おいっ。そういうこと、あんま大声で言うな。お前、南風さんに恨みでもあんのかよ?」
クラス内で、南風さんの裏の顔を知っているのは俺と美樹原だけなのだ。
「いんや? 恨みなんて、あるわけないじゃん。アタシ、あの子に恩があるんだよ?」
「なんだって……?」
「いや単純に、中学時代、あの子に助けられたことがあるのよ。駅でガラの悪い連中、レディースって言うのかな、趣味のいいカッコした人たちにカツアゲされそうになってさ。そこへ流浪の用心棒めいたあの子が現れて、バッタバッタとやっつけてくれましたとさ。アタシって、一度見た顔は絶対忘れないから。一目であのときの女の子だってわかったわ」
衝撃の告白を聞かされて、俺はあんぐりと口を開けた。
「ま、マジでかよ……」
「だからなおさら、幸せになってほしいんだよねえ。ほら、あの子って超がつくほど無理してる感じじゃない。なんでまた、あんなキャラになろうとしたのか……あのままでも充分魅力的だったし、慣れないことはしないほうがいい気がするんだけど……」
「そういうものなのか……」
同性の目から見ると、南風さんの変貌ぶりは不自然に映るようだ。異性の俺は、まんまとその姿に心を奪われてしまったわけだが……。
「ま、それはあんたにも言えることだけどね。どんくさい兄ちゃんかと思いきや、いきなり『バキ』みたいにぶっ飛ばすんだもん。人は見た目によらないって言うけど、ちょっとあんたたちは常軌を逸してるわ。単刀直入に言うと、キャラ濃すぎ!」
「いや、あの、すみません……好きでこうなったわけじゃないけど」
「別に謝らなくていいよ。助けられたのは、こっちだし」
「そいや、顔……だいじょぶか? かなりきつくビンタされていたけど……」
「ん? 心配ご無用。平気の平左って感じだから」
「そいつはよかった……」
カラカラと笑う姿を見て、俺はほっと安堵した。最初は意地悪な女かと思っていたが、強気で、肝が据わっていて、細かいことは気にしない性格のようだった。またも、反省しなくてはなるまい……。




