25.
予約設定間違えて本日2話公開になっておりますw
こちらを先に開いてしまった方は
前の話からお読みください
ごめーーーーーん
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「えっとその、……はぃ」
ちゃんと声に出せたかは分からない。
それでもなんとか首を上下に動かすことだけはできた。
「おまえ、それはないだろう」
「ないわー。告白を受けておきながら、たった一晩で完全に忘れるとか」
「ヘイリー、あなたってば」
三者三様。家族の口から声が上がる。告げる言葉はそれぞれちがっているけれど、すべてが私の失態を批難するものだった。
当たり前だ。私だって第三者的立場だったら呆れる。同じように批難すると思う。
じわりと涙がにじんで歪んでくる視界の向こうに、ジョイスさんと過ごした記憶が浮かんでくる。
勘違いして浮かれた馬鹿な私に、現実を教えてくれた冷静なジョイスさん。
ヒルダ様のお披露目についての打ち合わせで、ヒルダ様への愛を定期的に垂れ流すオルソン閣下へ細かくツッコミを入れているジョイスさんは、面白かった。
そのジョイスさんのツッコミを完全にスルーしてヒルダ様賛歌を続ける閣下をさらっと流すジョイスさんに、主従というだけではなく、とても良いコンビだなと思ったっけ。
ゴミムシをすみやかに連れ出した、実は力持ちなジョイスさんは、颯爽として格好良かった、気がする。
お酒を飲みすぎだと止めてくれて。
それで。それで……。
『あなたの時間を、ヒルダ様だけでなく、私にも、分けて欲しいのです』
突然、思い出したその言葉を告げるジョイスさんの真剣な顔を思い出して、頬がボンッと一気に真っ赤に染まった。
『では、まずは、そこからでいいです』
そう言って、やさしく笑った顔も。
「あ、ああぁぁぁあぁぁぁ!!!」
思い出した。思い出せたけれど。
いつの間にか沢山のジョイスさんが私の心の中にいて、その存在は大きくなりつつあったのに。
そうして幸運にも、その相手から手を差し伸べて貰うという奇跡が私の下に降り注いだというのに。
酒に呑まれて忘れてしまったばっかりに、失ってしまうのかもしれない。
怖い。でももしかしたら、まだ間に合うのではないかと顔を上げる。
けれど、当たり前だけれど、目の前に差し出されていたはずの手は、そこにもう無かった。
勇気を出して視線を上げたそこにあるのは、苦く笑う顔だった。
ようやく思い出した優しい笑顔が、そこに重なって、消えていく。
「そうですね、申し訳ありませんでした。すこしお酒が過ぎていると知っていたのに、大切な話をした私の失敗です」
謝罪をされて、喉が塞がる。
泣く権利は、私にはない。泣きたいのは、ジョイスさんの方だ。
告白するのには勇気が必要だ。
それだけじゃなくて、ジョイスさんはこうして家まできて、一時の気の迷いではなく本気の告白であり、関係の継続を申し出てくれたのだ。きっと。
それなのに、すべてを台無しにしたのは、私なのだから。
「……」
告げる言葉も見つけられないまま、もしかしたら最後になるかもしれないと、ジョイスさんの顔を見上げた。けれど涙が滲んできて、良く見えない。
泣くのを我慢しているせいだろう。頬や唇が、無様に震え出して、歪む。
なのに。
名前を呼ぶことすら躊躇してしまう私の前に、その人が跪いた。
「オーツ子爵家嫡男ジョイスと申します。オルソン侯爵バーナード様の乳兄弟で、現在は侍従を務めております。ヘイリー様と、婚約を前提にお付き合いさせていただきたいと思っているのですが、お受けいただけないでしょうか」
「え、は?」
あまりにも意外過ぎる展開に、頭は大混乱だ。
え、私って振られるところだったんじゃなかったかしら。
私なら、間違いなく幻滅して、なかったことにと伝えるところよ。
「ちなみに、『はい』以外の返事は受け付けておりません」
ジョイスさんは私の手を丁寧な手付きで取ると、いたずらっぽく笑った。
長い指に絡めら取られる。女性ではない、指の骨の太さや肌の硬さや熱に煽られて、頭が沸騰しそうだ。
恥ずかしすぎる。手を取り返したいのに、ジョイスさんの手を離したくなくて困る。
「でもっ。わたし、お酒に呑まれて、失態を」
「私も、侯爵夫妻に関する不名誉な噂が流されていることに気が付かなかった間抜けですから。身の程知らずではないので、お相手にだけ完璧なんて求めませんよ」
自分からは離せない。だから、ジョイスさんの方から手を離して貰わなくてはいけないのに。
絡められた指先に、柔らかな感触を感じる。
唇が寄せられていた。そのまま、指先に唇を寄せたまま、そこで話し出したり、しないでほしいのに。
「似合いだと思いませんか、私たち」
「〇✕▽■#$%&!」
言葉にならない奇声を発した私に、ジョイスさんは静かに笑って、手を返してくれた。
取り戻した手を胸元に引き寄せ抱きかかえる。
指先が、熱かった。ううん。耳も、頬も、全部熱い。
背中を向けて黙り込んだ私に向かって、ジョイスさんが言葉を続ける。
「あなたみたいに、論理的に物事を説明ができて、その対策について共に検討することができて、自分の仕事に誇りを持っていて、なおかつヒルダ様の作った食事をおいしそうに食べて、一緒にそのおいしさについて語れるという、私の理想を詰め込んだような女性は他にいる気がしないのです」
「!!」
揶揄われているのかもしれない、そう思ったのに。
一所懸命勤めてきた、仕事を認めて貰えたことがうれしくて胸がいっぱいになる。
「全部を叶えてくれる女性は、これまで誰も、私の周りにはいなかったんです。あなただけです」
ジョイスさんは、まだ何か言おうとしていた気がするけど。
家族の視線に、気が付く。
これ以上親や兄の前で、べた褒めされ続けることに耐えきれなくなって、「もうこれ以上は要らないの」とだけ言って、私は彼の腕の中へと飛び込んだ。
「『はい』って言ってくださらないのですか」
余裕のある態度が悔しくて、すこしの笑いと一緒に、「もうっ」と口から洩れていく。
「答えはもちろん、『はい』よろこんで!」
という訳で明日エピローグで番外編のヘイリーちゃん編も完結ですー




