22.
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「かいわ?」
「えぇ、約束したでしょう?」
「かいわかいわかいわ?」
そう何度も呟き首を傾げた。
笑顔のジェイドさんに問われたので、腕も組んで深く考え込んだ。
首が、かくんと反対側に傾く。うっ、頭に響く。
組んでいた手を額に移して抑える。
んー? 昨日は、順調に噂の撤回作業に励んで、楽しくゴミムシ掃除も終えて、ご褒美の晩餐会も美味しく食べ終えて、そうして、えーっと?
「あ! 引き出物のお菓子を一緒に食べようとか?」
「うん。不正解」
にっこり笑ったまま駄目出しされて、ぷーっと頬を膨らませて唇を尖らせた。どこが不正解なのよ。間違ってないもの。
「なんか忘れてるかもしれないけど、引き出物の話はしたはずですー!」
「引き出物はオルソン侯爵家からのお土産ですから私からお渡ししたのは確かです。ですが、昨夜それを一緒に食べようという話にはなりませんでした。それに私は、その『なんか忘れてる部分』を覚えているかとあなたに聞いているのですよ」
ぐっと顔を近づけられて、胸が高鳴る、いや動悸がヒドイ。心臓がばっくんばっくんって音を立てる。
糸目の笑顔。圧が強いのよ。
「んー? ん、んんーー?」
困った。なにも思いつかなすぎて、目を閉じて唸り声をあげる。うーん?
幾ら考えてもジョイスさんの言ってる会話とやらが思い出せなくて首を傾げていると、我慢しきれないとばかりに父が割って入ってきた。
「ヘイリー、いい加減にしないか。申し訳ございません、オーツ子爵令息。ウチの馬鹿娘が、お恥ずかしい」
額の汗をハンカチで拭きつつ、頭を下げる父の口から、先ほど「どんな関係だ」と問われた相手の名前が再び出てきた。
「おーつししゃくれいそくぅ?」
って誰だっけ? と、首を反対側に捻る。
「いたたた」
頭の角度を急に変えるのは体調的によくないようだ。そうだった、二日酔い中なんだった。頭がずっくんずっくんと痛み出して両手で押さえる。
「はい、ヘイリー嬢。口を開けてください」
「はひ? むぐっ」
返事をしようと開いた口にスプーンが突っ込まれた。
もごもごもごもご
「甘くてさっぱりして、つめひゃくて、おいひいれす」
しゃりしゃりした中に、氷の粒が入っていて、たまに歯でガリっと砕けるのが気持ちいい。おいしい。
「摩り下ろしたリンゴに、オレンジを絞ったものです。砕いた氷も混ぜてあるので舌に気持ちがいいはずです。さぁ、続きはご自分でどうぞ」
手渡されたスプーンを受け取り、綺麗なオレンジ色のそれを口へ運ぶ。
「おいしいですねぇ、これ。そうか、リンゴが茶色くならないようにオレンジで色止めがされているんですね」
スプーンで掬って口へ運ぶ手が止められない。
なんだろう。膨張していた頭の血管から、ぷしゅーって圧が抜けていく感じ。
冷たすぎない冷たさで、一口一口食べ進める度に、すーっと身体が楽になっていく。
「ふう。ごちそうさまでした」
すっかり空になった器をテーブルに戻した。
元々、フルーツティーを3杯も飲んでいてお腹たぷたぷだったから、摩り下ろしたリンゴだけで満腹だ。
なにより胸のムカつきも動悸も治まったお陰か、頭もスッキリしてきた。
「ヒルダ様だけでなくジェイドさんの料理の腕も結構すごいんですねぇ」
「私がお出ししたものは、料理というほどのものではありませんよ」
軽く否定されてしまって、つい声を大きくした。
「でもすごいです!」
重ねて伝えると、にっこりと笑って「ありがとうございます」と言ってくれた。
その笑顔を見てたら、また頬が熱くなってきた。
氷が足りなかったかしら。あぁでももうお腹はいっぱいだ。水一滴入らない!
「先ほどより顔色も落ち着いたようですけど、まだ顔が赤いですね。もし眠れるようなら、もう少しベッドで横になってくるといいですよ」
「ジョイスさん」
やさしい。作ってくれた甘いティーもおいしかったし、オレンジ果汁の掛かった摩り下ろしたリンゴもさっぱりしておいしかった。
「ジョイスさんの恋人になる方は、きっとお幸せでしょうねぇ。あ、もういらっしゃるのかしら。あ、やだ私ったら。立ち入ったことを言ってすみません」
こんな人が恋人になってくれたら、最高なのではないだろうかと思ったので、つい言葉にしてしまったのだけれど、笑った顔が急に引き攣ったことに気がついて口を閉じる。
プライベートに関することなんて軽々しく口にするべきじゃないって知ってるのに。
なんて失礼なことを言ってしまったのだろう!




