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21.



「おかあさまったら。耳元でそんあに大きな声を出さなくてもいいじゃないですかぁ」


 フルーツティーのお陰で幾分か楽になったとはいえ、まだすこし重だるい感覚の残る頭にはキツい。両手で額を押さえると、テーブルに肘をついて下を向く。


 ナニコレやばいわ。急に頭の位置を変えたからかしら。声が頭に響いてぐわんぐわんする。うっ。


「ヘイリー、いい加減にしないか」


 怖い顔で怒るおとうさまに、腕を掴まれ振り向かされた。

 確かにちょっと行儀が悪いとは思うが、今だけは許してほしい。そうして掴んだ手を今すぐ離してほしかった。


「ごめんなさい、おとうさま。でもホラ、私、二日酔いって初めてで……うっ。いきなり顔の向きを変えられたら……うっぷ。お、お願いゆるして」


 思わず泣き言が口からこぼれる。

 ナニコレナニコレ。目が回る。涙が出そうよ。


「ふえぇん。おとうさま、ごめんなさいぃ」


 情けない声を上げたところで、宥めるように大きな手が肩へと掛けられた。

 腕を掴んでいた父の手が、離れていく。


「まぁまぁ。ヘイリー嬢は、まだ少しアルコールが残っているのかもしれません。あまり無理はさせない方がよろしいかと」


 まるで舞踏会でエスコートされているように腰から支えられて、再び席へ着く。


「ありがとう、ジョイスさん」

「どういたしまして。それにしても、昨夜も思ったのですが、ヘイリー嬢はあまりアルコールは得意ではないのでしょうか」


 差し出された3杯目は今までで一番甘くておいしかった。うぅっ。ジョイスさんの優しさが胃袋へと染み渡る。おいしい。何倍でも飲めちゃう。


「昨夜はね、すっごくおいしくて。うん、おいしく飲みました。でも、うーん、普段は特においしいと思わないので、ちょっとしか飲んだことはないんです。えへへ。ヒルダ様特製のあの果実酒、最高においしかったですねぇ」


 思い出すだけで頬が緩んでにこにこしてしまう。


「あぁまた飲みたいなぁ、アレ。勿論このフルーツティーもおいしいんですけどねぇ」


 同意を求めて笑顔を向けると、なぜかジョイスさんが増えていた。あれぇ?


「ジョイスさんって、ふたご……いえ、三つ子だったんですかぁ?」


 おもしろくてケタケタと笑った。あぁ、おかしい。ジョイスさん、3人もいる!


「うん? 紅茶で血流が戻って酔いが? いや、それだけでこれほど酔いが戻ることがあるのでしょうか」


 なぜだかブツブツとジョイスさんが悩んでいる。

 真面目な顔をしていても、糸目なジョイスさんはあんまり怖くないなーと見つめる。


「あの……すみません。もしかしたら、この蜜のせいかもしれません。こちらは蜂蜜ではないのです。安いワインに糖蜜を入れて煮詰めたものなんです。でも酔うほどのアルコールなんて残っていないハズなんですけど」


 死にそうな顔をした母が何か弁明すると、ジョイスさんが天を仰いだ。


「しまった。蜂蜜の代用品(そういうもの)があると知っていたのに。知識だけあっても現物を知らないとやはり駄目ですね。確認不足でした。どうやらアルコールが抜けていない状態だったせいで、すこしのアルコールでも迎え酒になってしまったようですねぇ」


 砂糖を精製した際に残った廃糖蜜(いわゆる糖蜜)は、精製時に加熱処理を繰り返すことでカラメルが生成されて褐色となる。そのまま料理や庶民のための菓子の材料に使われることもあるが、色が濃くなりすぎるのと味がしつこいので、ワインと一緒に煮詰めて蜂蜜の代わりにするのだ。


 三者三様の哀れみの視線を向けられていることにまるで気が付かないまま、すでに空になっている3杯目のフルーツティーが入っていたカップを斜めに傾けた。むぅ。やっぱり空だ。


「でもこのフルーツティーもぉ、すっごく甘くておいしいですねぇ。うふふ」


 もうちょっと飲みたいなーとチラチラ視線を送る。


「これは見事だ」


 ジョイスさんの顔が近づいてきて見上げる。どうやら、興味深げにしげしげと見つめられていることに気が付いた。


「なにが見事……? あぁ、ヒルダ様の作ったお料理のことですね! あれ、どれもこれも本っ当に! おいしかったですねぇ」


 うん、全部もう一度たべたい。食べたいなー。

 思い出すだけで多幸感がすごい。ぶわーって湧き上がってくる感じがする。


 オルソン閣下の独占欲そのもののようなドレスはちょっと内実を知っているとどうかなーって思うけど、実際ヒルダ様に良く似合っていた。

 次は一緒にドレスのデザインとか考えたいなー夢のドレスを着て貰えないだろうか。


 ふわふわと頭の中で愛らしいドレスを着たヒルダ様が浮かんでくる。

 あぁ、しあわせだ。うん、きっとこれがしあわせ。すごく、しあわせ。みごとな、しあわせ。


「すごい。まるで会話がかみ合わない。くくく。ヘイリー嬢。見事なのは、あなたの酔っ払い具合ですよ」


「えー、よっぱらいじゃないですよぅ。ちがいますぅ」


 今朝はもうお酒なんて飲んでませんからね!


「では、昨夜の私との会話を、思い出せますか?」





※廃糖蜜自体は実在しますが、廃糖蜜を使ったワイン蜜は私の捏造なので調べても出てこないよ。どっかで作ってそうな気もするけど私は知らないっす

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