20.
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「普段はあまり飲まないので。二日酔いになるほど飲んだことも無くて」
本当に二日酔いなのかと訝しむ気持ちはある。そもそもおいしく飲んだ記憶はあるが、途中で止められてしまったし。
でも確かに噂に聞いている二日酔いの症状とよく似てはいる。
「なるほど。それで昨夜のあなたは、感情の揺れが激しかったと」
ひとり納得した様子でうなずくと、ジョイスさんは私の質問に答えることなく朝食のテーブルに近寄っていくと、籠に盛られた果物を二つ三つ手に取った。
「失礼。こちら頂いても?」
自分に問いかけられると思わなかったのか、父の肩が跳ねた。そうして母から手でなにか早くしろというサインのようなものが出されていることに気が付くと、ようやく無言のまま手を差し出して頷いた。吃驚しすぎたのだろう。なんにしても動きが怪しすぎる。
家族4人分計8つの瞳に見つめられながら、流れるような手つきで紅茶をお湯で温めたティーサーバーの中へと移した。
「あ」
これ以上濃くなってしまわないようにしたのだ。分かるんだけど、いつも用意だけはされているけれど、我が家でティーサーバーが使われたことはない。
皆、自分の分だけ勝手に淹れておしまいにするからだ。
次に、ジョイスさんは果物ナイフを手に取って、器用に果物を切り分けていく。
スライスされたリンゴは、厚みも幅も何もかも揃ってて美しいし、柔らかな桃もするすると皮を剥いで薄く切り分け、ティーサーバー内の紅茶の中へと沈めていく。決して紅茶が中で跳ねたりしない。丁寧な仕事だ。
「器用ですねぇ」
思わず鮮やかな手つきに見惚れてしまった。感動すらある。
「ありがとうございます。これが仕事ですので」
ジョイスさんはニコっと笑ってオレンジを半分に切ると、フォークを差し込んで軽く捻った。
それだけで、オレンジの果汁が魔法のように溢れ出し、カップの中へと注がれていく。
「「「「おぉ~」」」」
思わず家族全員揃って感嘆の声を上げてしまった。
「丁度いい感じですね」
ジョイスさんはティーサーバーの中の香りを確かめ満足げに頷くと、オレンジ果汁が入っているカップへ、その中身を注いだ。
空中を弧を描いて紅茶がカップへと注がれていく。
零すことなく丁度の量を注ぎ終わると、横に置いてあった蜜をスプーンでひと匙垂らしてかき混ぜる。
そうしてついに完成したフルーツティーを、私の前へと差し出した。
「さぁどうぞ。二日酔いの朝には、ビタミンと糖分が必要です。本当はカフェインもあまり良くないのですが、少しなら構わないでしょう」
手に取ったカップから立ち上るのは、すでに紅茶ではなくフルーティーなジュースのような芳香だ。
「良い香り……」
熱々ではない。でも冷たい訳でも勿論ない。
飲みやすい温度に冷めているフルーツティーを、飲み干した。
どうやら自分で思っていた以上に喉が渇いていたようで、身体が潤っていくのがわかる。
「おいしい。ううん、おいしすぎ」
「それは良かった。お替りは如何ですか?」
「喜んでお願いするわ」
笑顔で空になったカップを差し出すと、母が悲鳴のような声を上げた。
「ヘイリー! 子爵家のご令息に、何をさせているのあなた!」
今の今まで見守っていたくせにとは思ったものの、それより気になる単語が混ざっていた。
「子爵家のご令息?」
その疑問に答えが返ってくる前に、ジョイスがお替りの準備を整えてくれる。
「どうぞ」
「ありがとう。……あぁおいしい。そうですか、これが二日酔いなんですねぇ。へぇ。そういえば結構アルコール飲んじゃって、ジョイスさんに止められましたもんね」
視線を合わせて、あははと二人で笑い合う。
あのヒルダ様特製果実入りのお酒もおいしかった。是非また飲みたい。
いいやお酒だけではなくて、食事もどれも美味しかったし、デザートも前に食べたチョコレートケーキのグレードアップ版で最高においしかった!
「あ、そうだったわ。引き出物の中身って、ヒルダ様特製のお菓子なんですよね。あれをみんなで食べましょうよ!」
我ながらいいアイデアだ。
本当は一人で抱えて食べたいという願望はあるけれど、あのパーティーに参加できただけでも十分すぎる幸運なのだ。
家族にもあの幸せを分けることは当然だと思う。
できることなら、ちょっとだけ、自分の分の割り当てを多くしたい気がしないでもないけれど、今このおいしいフルーツティーを淹れてくれたジョイスがその分を食べるというなら文句はない。それはそれでいいと思う。
「いいですね。アルコールの分解には糖質が必要なんですよ」
「うふふ。今の私には必要ってことですね!」
引き出物と渡してもらったけれど、昨夜はすぐに寝てしまったのでまだ中身を確認していなかった。
いったいどんな素晴らしい菓子が入っているのか、わくわくが止まらない。
「待っていてください、ちょっと取ってきますね」
いそいそと立ち上がった所で、ついに母の堪忍袋が切れたらしい。
「ヘイリー! いい加減になさい!」




