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17.



「こちら、本日の引き出物でございます」


 ヘイリーは差し出された袋を受け取った。

 他の見送り客は何も受け取って居なかったと思うので、首を傾げる。


「他の皆様は、使用人へお渡ししております」

「ですよねー」


 侯爵家からの正式な晩餐会の招待を受けて、付き人無しで参加する令嬢などいる筈が無いのだ。当たり前だ。招待状を受けて一人で参加すると回答したヘイリーは、入場時は目の前にいる侍従にエスコートしてもらったし、席もなんとなーく上手に両側に男性が座るように配置を工夫してもらった。配慮してもらいまくりだ。


「なんか、侯爵家の馬車を出して貰っちゃってすみません」

「会場へ貸馬車でいらっしゃるくらいなら、お申し出頂ければ行きもお迎えに参じたのですが」


 額を押さえながらため息をつかれてしまい空気が微妙なものになり、ヘイリーは乾いた笑いで誤魔化した。


「ウチ、馬車は父と兄が出仕してく時のものしかないんですよねぇ。ははは」


 昼のガーデンパーティーがもう少し遅い時間からなら、御者の使用人に急いで帰ってきて貰ってからでも間に合ったのかもしれない。しかし、侯爵家の招待にたかが男爵家の令嬢が、万が一にでも遅刻する訳にはいかない。そもそも一番乗り以外には許されないと母と検討した結果、貸馬車を借りるのが一番だと判断したのだが。


「もしかして、普段の通勤も貸馬車を?」


 哀れな者を見る視線に、即答する。


「父と兄も同じ勤務先ですから!」


 正しくは配属先は違う。だが、三人揃って王宮で文官をしている。

 父は長く財務課に勤めているし、兄は騎士団の事務官、そうしてヘイリーは文書課である。ちなみに、今は引退しているが母も元は王宮勤めをしていた。ただし文官ではなく下級侍女として子供を得るまで勤めていた。


 ヘイリーの実家には領地というものはない。代々、文官を勤めあげた者が多い家であり、3代続けて上級王宮文官の資格を取ったご褒美に綬爵した木っ端貴族である。

 平民より使い勝手がいいというか、情報の秘匿が必要な部署にも配置しやすいということなのだろう。


「なるほど。それで王宮内に沢山の伝手をお持ちなのですね。いろいろお詳しいはずだ」


 得心がいったとばかりのしたり顔をするジョイスの言葉に、ヘイリーは責められている気がして顔を顰めた。


「うっ。噂に踊らされた件についてはもう十分に反省してます」


 つい、吐き出すように強い反応をしてしまった。

 確かに間違いなく、噂に踊らされたヘイリーが悪いのだ。分かっている。分かっているからこそ、痛いところを突かれて、過剰に反応してしまったのだ。子供じみた幼い反応をしてしまった恥ずかしさに顔を俯けた。


「嫌味を言ったつもりはないのですが、そう受け止められてしまったというなら、謝罪します。失礼いたしました」


 頭を下げたジョイスに、ヘイリーは目を瞬いた。

 腰から深く曲げているからだろうか。綺麗に撫でつけられていた髪が、元の癖毛のせいかつむじのところでクルンと一束落ちてきている。


 それが揺れる様を見ていたら、自分を守るために相手を攻撃するような真似をしてしまったことを素直に反省することができた。


「すみません。過剰反応しました。私は、批難されて当然なのに。怒る資格など、ないのに」

 あれだけ反省したというのに。そもそも、噂に騙された被害者の振りをしたって、自分自身を騙しきることはできない。自分の行いを恥じたのは、噓ではないのに。自己嫌悪に視線が下がった。渡された引き出物の包身を持つ手が震えた。


 ──これを受け取る資格など、ヘイリーにはなかったのかもしれない。

 ──ヒルダ様と隠れお揃いのドレスたちも、身の程知らず過ぎたのかもしれない。


 今のヘイリーは、昼のパーティーで着ていたツーピースのデイドレスの上着を脱いで、裏地無しで作った薄いオーバードレスを重ねており、共布で作ったヘッドドレスを付けている。


 けれど、いくらオルソン閣下からの言葉でも、生地を融通していただくなど格別の厚意を受け取る資格など、ヘイリーにはなかったのだ。

 己の厚かましさに今更ながら震えが止まらなくなった。


「あの、わたし、こんなとこまで来ちゃって。今更なんですけど……その、」


 ヘイリーは、きちんとした謝罪をすることなく、涙を流して誤魔化す女が大嫌いだった。


 それなのに、そんな女に自分がなりかけているという事実に更に打ちのめされて、

 涙をこらえるのが精一杯の状態すぎて、言葉が上手く探せなくなっていた。





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