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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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2.好きだと言い張れる根拠は何?


(大丈夫。私がなんとかする。……本当はこのまま平穏であればいいのに)


そう願わずにはいられないのは巫女失格だろうか?


命を投げ出すことより、本当は姉妹が幸せに――……。



「何か欲しいものがあるのかい?」


遊佐の声かけにハッとして顔をあげる。


すぐにマイナスに考えてしまうと頬を叩き、自分がすべきことに注力する。


「護身用に武器がほしいんです! でも自分にどれなら扱えるかわからなくて」


その悩みに遊佐は真剣に考えてくれ、私の身長や体格を確認してから武器を物色しだす。


「薙刀なら持ってても咎められないよ。女学生の嗜み扱いだからね」


「女学生?」


「勉強する若い女の人のことだよ」


今の時代は女にも学ぶ権利があるのか。


そんなに時代は進んでいるのかとため息さえ出てしまう。


抑圧された環境でしか生きたことがないため、自由にのびのびと生活できるのが想像できない。


それこそ千年前で成し遂げていた女性とは一人しか思い浮かばなかった。



「これ、いいですね」


薙刀を手に重さや持ち心地を確かめてしっくりくることに口角が緩む。


私は剣も弓も、基本的な扱いは出来る。


だが特化した力はなく、姉たちの優秀さの前で意味はないと極める道を選ばなかった。


練習すれば扱えそうだと、久しぶりの充足感に心が安らいだ。


しかし困ったことに私には支払える金がない。


深琴に頼るのは嫌だと思い悩んでいると、遊佐は「あげる」と気さくに笑いかけてきた。


「でも」と戸惑いをみせると、「守里さんの妹さんだから特別」と冗談交じりに下心を返してきた。


「ありがとうございます……」


深琴もこれくらい穏やかで大人な男性だったらよかったのに。


観察する必要がないくらい、遊佐は真面目で良い人だ。


守里がここに残るのであれば、安心して頼めるくらいの誠実さが垣間見える。


(守里ちゃんには幸せになってほしいよ。なってほしいのに……)


どうしてこうも上手くいかないのか。


叶わない未来を思うと気持ちに陰りがさす。


(せめて私ががんばらなきゃ)


これ以上、不安定な姿は見られてはダメだ。


遊佐にだって見透かされてしまえば守里にだって伝わってしまう。


私は遊佐に頭をさげると、そそくさとその場から離れることにした。


用意された寝室に戻ると、刀を手入れする深琴がいた。



「おかえり穂乃花。あれ、その薙刀どうし……」


ピシャン! と乱暴に襖をしめると、私は薙刀の柄で深琴の腕を叩く。


「なんでこっちの部屋にいるのよ」


眉がぴくぴくしているのがわかるくらい、今は鬼の形相となっているだろう。


「まあまあ」と深琴は両手を前にして私を落ちつけようとしたが、そう簡単には目尻の棘が取れそうにない。


一定距離は保ちたい意思を貫きたいところだが、やはり相手は深琴。


そんなのお構いなしにとを輝かせ、薙刀の柄を掴んで後ろに引いた。


バランスを崩した私は畳に躓いてしまい、深琴の胸に飛び込んでしまった。


「ひっ!? ちょっと、離しなさいよ!」


「よしよし。穂乃花はえらいなぁ」


「馬鹿にしてるの? 何がえらいって言うのよ」


「ん~。存在? オレに会いに来てくれた時点でえらいさ」


「あなたに会いに来たわけじゃ……」



あぁ、なんて皮肉すぎて吐血しそうなのだろう。


姉たちに会って勾玉を回収し、可能ならば人柱になることなく八ツ俣を封印したい。


その一心でこの時代まで流れてきただけなのに、思わぬところから甘えが許されるとどうしていいかわからなくなる。


会ったこともないのになぜ、そこまで一途に想えるの?


これだけ拒絶されてなお、好きだと言い張れる根拠は何?


全部がわからなすぎて、それにいっそのこと目を閉じて身を委ねることができたら楽だったかと一瞬でも想像してしまう自分が許せなかった。



「何なの……。何なのよ!」


葛藤を抑えきれなくなり、やけくそに全力で叫ぶ。


二人だけの静かな部屋で、私は癇癪を起こしてボロボロと大粒の涙を頬に伝わせる。


それに深琴が目を見開き、子供をあやす手つきで私の背を撫でてきた。


「何かあった?」


いつもはからかうばかりなのにこういう時はやさしい声色だ。


本当に駄々をこねるだけの子供になってしまったと、私は自己嫌悪を強めていく。


(わかってた。本当はちゃんと気づいてた)


深琴はお調子者なだけで、はじめから優しかった。


唇を強引に奪ったこと以外は、何一つ罪作りなことがない。


それだけでも十分に万死に値するが、こうして反省して誠意をもって愛情を伝えてくる姿勢に心が動かないほど、私は恋に無関心なわけではなかった。


こんなに誰かに好意を伝えられたことがないから、「ありがとう」の言い方がわからないの。


背景の見えない好意は底も見えなくて、素直に受け止めるには一歩踏み出せなかった。


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