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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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2.かつて犯した罪


「覚悟が甘かったみたい」


姉たちには束の間の幸せでも、自由に過ごしてほしかった。


だけどそれが一番残酷な願いだったのでは? と今更ながらに気づいてしまう。


幸せを知れば八ツ俣封印のために身を投げ出すなんて出来ない。


身を犠牲にすれば悲しむ人がいる。


そんな簡単なこともわからなくなっていたなんて、余裕がなさすぎて情けなかった。



「まだそこまで見たわけじゃないけど、守里ちゃんを見て迷っちゃった。私、守里ちゃんの幸せを奪う覚悟なんてない」


長女に人柱にならなくて済む方法を尋ね、道を模索する気ではいた。


しかしそれならばそもそも、千年前の時点で人柱になる意味はなかったはず。


それくらい八ツ俣は強大な力を持っているから、姉は身を引き裂く覚悟で妹たちに告げたんだ。



「たぶん、大丈夫だよ」


頭上から配慮のない軽々しい言葉が降ってくる。


「ふざけ……!」


「ふざけてない。俺が穂乃花を失いたくないんだ。だから絶対に人柱になんてしない」


今度は力強い声と言葉。


鉛のように重く、今にも砕け散りそうだった心は繊細に震えだし、苦しさが喉を超えようとする。


こんなに自分に幻滅しているのに、深琴はそれすら許してくれる人懐っこい笑顔で私を見つめてくるんだ。



「巫女様が、人柱はいらないって言ってたんだ。今は仮封印が出来ている。ちゃんと勾玉がそろえば大丈夫ってな」


「巫女様って……」


深琴に勾玉を探すように言った人のことだろうか。


誰のことか見当もつかず、返答に悩んでいると、深琴は弱り果てた微笑みを浮かべ、先ほどまで磨いていた剣に指を滑らせた。


「オレさ、この剣折っちまったんだ」


深琴が折れた剣を畳にそっと滑らせる。


その刀身から目を背けるように見つめる横顔は、いつもの軽薄さが消えていた。


胸が締めつけられるほどに沈痛な面持ちに、そこまで悩まなくてはならない理由を知りたくなった。



「鍛冶師にみてもらえなかったの?」


「古い剣でな。今の時代、治せる人がいねーのさ」


「……その剣ってさ。千年くらい前のもの?」


「おお、よくわかったな。さすがオレの嫁さんだ」


嫁さんは余計だ、と手を振り払う。


私にはこの剣に見覚えがあった。


「これ、どこで手に入れたの? 使ってた人はもうとっくに……」


「そうだろうな。オレの暮らしていた村に伝わる剣なんだ」


この人は八ツ俣封印のことを真剣に考えてここまで来たんだ。


それが伝わってきて、独りよがりだった意地がほぐれていく。


この剣は妹が守り、剣士が八ツ俣と戦うために握ったものだ。


千年経っても繋がっている。


平和を願う心は同じだと目頭が熱くなった。



「ありがとう、深琴」


「お……おぉ……」


素直に感謝が口に出た。


すると深琴はパッと目を逸らし、耳まで赤くする。


こうすれば深琴は振り回せるのか。


振り回されてばかりだった分、少し上手に立った気分だ。


それ以上に、自分もまた毒されている感覚に口角を引き締めた。



「オレの村にいた巫女様が言ってたんだ。勾玉さえ集めれば人柱はいらないんだって」


「何を根拠に……」


「巫女様はスゲーんだぞ。高位の巫女様だ。八ツ俣も絶対に封印出来るすげー巫女様だ」


「だから何を根拠に……!」


一度逸らされた目が私を射抜く。


「オレを救ってくださった巫女様だ。それ以上に信じる理由が必要か?」



あぁ、本当にこの人は愚直だ。


許したくなるほどに真っすぐで、喉が震えて唇を丸めるしかできない。


信じる理由なんてないのに、すがりたくなってしまう。


力強い言葉とまぶしい笑顔はやっぱり甘い毒だった。



「人柱にならなくてもいいの?」


声が震えて、唇が濡れてしょっぱくなる。


深琴の熱さが、閉ざされていた「自由」への道を開く。


狭間にうずくまっていた私に、救いの光が差した。


「そういうこと。オレを信じろ。だから守里さんの幸せを願うのは自由ってことさ」


「あはっ。それは難しいや。深琴を信用するって一番難しい」


「えーっ。なら要努力ってことか?」


「……でも、信じる努力は出来るよ」


顔を上げて、今できる精一杯のあたたかさが頬を緩めた。


素直になりきれなくても、壁を張り続けたいわけではない。


無理やり純潔を奪うような人でなければ、もっと心は近かったはずなのに……。



(守里ちゃんの幸せを願っていいんだ。お姉ちゃんたちみんな幸せに……)


「穂乃花」


隙を逃すまいと深琴が後ろから抱きしめてくる。


ちょっと心を開いてみればこれだ。


やはり油断大敵だと、反射的に悲鳴をあげて深琴に思いきり頭突きを食らわす。


顎に直撃してうずくまる深琴を無視し、部屋から飛び出した。


息を切らして胸に手をあて、唾をのみこむと、土塀に背を預けて座りこむ。


あれだけ不快感が強かったのに、今はドキドキのほうが強い。


何故、と問いかけて答えを知りたくないと首を横に振った。



(私は巫女。貞操を奪われたから夫婦だけど、心は夫婦にならない。何があっても本当の夫婦になることはないんだから)


深琴に依存しないよう、自分に言い聞かせる。


守里の幸せは望む。


だが、自分だけが特別に救われるわけではないと、かつて犯した罪に歯を食いしばった。


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