2.守里と穂乃花
食事の時間は深琴の視線が気になって集中できなかった。
久しぶりに守里の手作り料理を食べているのに、と頬に詰め込むばかりで喉を通らなかった。
夕食を終えると、守里と銭湯に向かう。
共同の湯浴みははじめてだと、私は裸の女性に恥じらって背中を丸める。
湯に浸かっても恥ずかしさは消えず、膝を抱えて身体を隠そうとした。
「あたたかくて気持ちいいねぇ」
「ううぅ、恥ずかしい」
「こういうのは慣れだよぉ。穂乃花ちゃんはとってもかわいい」
「ここにいる人、みんな自信ありますって顔してる」
華奢な守里に言われるとますます自信喪失してしまう。
食べたら食べた分だけ肉付きが目立つ。
湯に浮くくらいの胸は着物では膨らみ方が歪み、だらしなく見えてしまうので、自分の身体は醜いと感じていた。
せっかく守里といるのにと落ち込んでしまう。
すると気にかけた守里が私の耳たぶをつまんでふにふにと遊びだした。
「守里ちゃん、なにして……」
「おそろいの耳飾り、しないの?」
深琴に渡された瑠璃の耳飾りのことだ。
恥ずかしさを刺激され、ギョッとして背中をのけぞらせる。
「ちがっ! おそろいなんかじゃ……。って、付けるわけないよ!」
「別にいいじゃない。深琴くん、楽しみにしてるわよ」
そんなはずない。
あれだけ軟派な野郎なんだから、そこまで私に一喜一憂したりしない。
からかってばかりで反応しなくてはならないこっちの身にもなれと、恨みがましく深琴に念を送った。
「……ねぇ、穂乃花ちゃん」
桶が床石にぶつかる音が響く。
ざばざばとお湯が揺れるなかで、守里が憂いを隠し切れない微笑みを浮かべた。
「勾玉を集めるのは穂乃花ちゃんじゃなくてもいいのよ?」
その言葉に私は静かに首を横に振った。
「私じゃないとダメ。私がお姉ちゃんたちを巻き込んだんだから」
罪の意識が縛りつける。
姉たちを人柱にせず、勾玉を集めてなんとかなるのなら、すべてを投げ打ってでもすがりつきたかった。
――姉たちには必要以上に迷惑をかけたくない。
かつて人柱になるとわかって八ツ俣を封印しようとした時、大罪を犯した。
姉たちが倒れていくさまに、私は恐れを抱いて儀式を中断させてしまった。
もし継続していたら八ツ俣封印は成功していたかもしれない。
中途半端に姉たちを長い眠りにつかせる必要だってなかった。
もう守里を困らせない。
今は深琴の言葉を借りてでも平然をかますんだ。
「深琴が人柱にならなくても大丈夫って言ってたの! だから私が責任もって探すから安心して!」
誰も傷つかない方法があるならば全力でそこに突き進む。
真っ暗で先の見えない道に希望がさしたと、俯きっぱなしだった私ははじめて心から前を向けた。
(絶対にやり遂げて見せる)
「わたしも穂乃花ちゃんも巫女だよ。……それだけは忘れないでね」
「守里ちゃんは……」
言葉は飲み込んだ。
守里の幸せは、守里が決めること。
おそらく守里は遊佐の気持ちにも気づいている。
だから答えを出せない中途半端さに、今できることは何度も何度も自分たちを洗脳して巫女の意識を高めることだけだった。
翌朝、旅支度を終えて店先で守里と遊佐に別れを告げる。
「いつでも来てくれて構わないからな」
「はい。あの、遊佐さん。薙刀いただいちゃって、ありがとうございます」
深々と腰をおって礼を言うと遊佐は「いいってことよ」と気さくに笑った。
「そうだ、深琴くん。君が聞いてきた刀鍛冶の件だけど」
私が守里と行動していたこともあり、深琴は遊佐と交流を深めていたようだ。
二人で話し出してしまったので私はちらりと守里に視線を向ける。
「穂乃花ちゃん」
守里が私の手のひらに、翡翠の光を秘めた勾玉を握らせる。
「ごめんね。わたし、勾玉だけ渡すことにしちゃって」
「ううん。それでいいの。……またね」
どうかその「またね」が幸せを選択できるものでありますように。
私は勾玉を受け取ると、凛として、意地を張りながら微笑みを浮かべた。
「さ、行こうか」
深琴に手招きされ、私は髪をなびかせて走りだす。
薙刀を大事に両手で握り、深琴に追いつくと強気に口角をあげた。
次の目的地を目指し、穂乃花は深琴を盾として利用する旅に出る。
残りの姉妹を探して、次なる地へ――。




