3.桐野村の探し人
♡♡♡ 三 ♡♡♡
「あら、色男」
「どうもどうも~」
旅で立ち寄った先で深琴はへらへらしてばかり。
そのたびに私の中で煮え切らない苛立ちが襲ってきた。
(あれだけ“穂乃花一筋”とか言っておきながら何なのよ。やっぱり根っこは軟派野郎なんだ!)
やってられるか! と遊佐からもらった薙刀の腹で深琴を叩く。
「お、穂乃花さんヤキモチですかい? うれしいねぇ」
「うっさい! 何が夫婦よ浮気者め!」
やけくそになって深琴への攻撃を荒くしていくが、一向に当たらない。
それさえも腹立たしく、振り回されて精神が疲弊しそうだ。
「なーんだ。ちゃんと夫婦って認めてんじゃねーか」
最終的にはこんな頓珍漢な答えが返ってきてしまうので、お冠ものだ。
唇を奪われたからには形式上夫婦かもしれない。
だがそこに心は一切ないんだと、薙刀を強く握りしめることで意識を固めた。
「おっ、村っぽいのが見えてきたな」
いくつかの集落を抜け、何もない平地を歩き続けて数日。
砂利だらけの道が続いていたが、人の営みがある田園風景が視界に飛び込んできて希望に心が浮き立った。
「うん、間違いねー。あれが桐野村だ」
ついに目的地の一つ、桐野村にたどり着いた。
姉たちと勾玉を探すうえで、守里が占いで居場所に目星をつけてくれた。
誰がいるとまではわからないが、そこに姉妹の魂が強く反応しているらしい。
姉妹の誰がいるんだろうと、実感はないけれど千年ぶりの再会にドキドキしてしまう。
再び姉に会えると喜ぶ妹の顔と、姉を裏切ってしまった愚か者の顔が、入り混じってはいるけれど……。
桐野村はあぜ道から野生の生き物の鳴き声が聞こえるくらいに静かだ。
典型的な田舎であるが、穂乃花にはどこか懐かしい光景でもやもやしていた気持ちを風が吹き飛ばしてくれる。
すれ違う村人に声をかけていき、姉妹の手がかりを得つつ、先へ進んだ。
「ねぇ、伊佐治って誰?」
深琴は“伊佐治”という人を探していることも尋ねていた。
「刀鍛冶だよ。遊佐さんから話をな。桐野村にいるらしいからとっ捕まえてーんだ」
ずいぶんと物騒な物言いだが、おそらく剣の修復にかかわっているのだろう。
遊佐はもともと鍛冶師だ。
もしかしたら剣を治せる可能性のある巧妙な刀鍛冶を知っていたのかもしれない。
一点、気がかりなのは伊佐治について尋ねると村人たちが表情を曇らせたこと……。
「ここだな」
集落から少し外れた場所にポツンと建つ平屋。
玄関口は広く、田舎特有の敷地面積の大きさに息をのむ。
中に入ると手入れの行き届いた鍛冶場があり、奥に生活空間が続いていた。
「すまねぇ、伊佐治さんいるかい!? 暁月村の深琴ってぇんだが!」
深琴は声が大きい。
大きな家屋でも奥まで響きそうな勢いだ。
その証拠に家屋の中からバタバタと足音が近づいてくる。
そして勢いよく襖が開いた……が誰もいない。
まさかと思い視線を落とすと、ビー玉のような丸っこい瞳と目が合った。
一見すると幼い女の子。
だがまぎれもなく穂乃花が探していた姉の一人だった。
「植実ちゃ~ん!」
「ほのちゃんなのら~!」
高揚する気持ちのまま植実に向かって走り出し、植実も小さな身体で私に飛びついてくる。
あぁ、なんてかわいいんだとキュンキュンして、たまらず植実に頬擦りをした。
「ほのちゃん! 息できないのら!」
植実は見た目こそ幼いが、私の姉で、五番目の巫女だ。
お団子のツインテールをした小さな娘に蓄積していた感情が爆発する。
私の腕にすっぽり覆われるほど小さな身体をした植実は、舌足らずに訴えながら手足をばたつかせた。
「ごめん。……会えてよかった」
膝をつき、植実の額にコツンと額を重ねる。
今は罪悪感よりも、再会できた胸の熱さのほうが強くて天井を見つめることで涙をせき止めていた。
「はじめまして。植実ねーさん。穂乃花の夫になりました深琴でっす」
深琴は植実ににっこりとさっそく調子のよい顔をしだす。
「なっ!?」
「おおー、二枚目な兄さんなのらっ!」
なんという酷い自己紹介だ、と文句をつけるより先に植実が悪ノリをする。
形式上は……。
あくまで形式上であり、気持ちの上では夫婦どころか恋人どころか、友達以下どころか他人以下だと訴えたい。
だが事実は事実。
どれだけ恨んでも初めての接吻は返ってこないのだと嘆き悲しむしかなかった。




