10.エピローグ①
♡♡♡ 十 ♡♡♡
暁月村の住人はなんとか森を抜けて逃げ続けたようで、全員の存命が確認された。
八ツ俣が山も森も破壊してしまったため、怪我人が多く出て損害はかなり大きなものだった。
「巫女様が逃げるよう言ってくださらなきゃオレら死んでたよ」
相良を含む村人がぞろぞろと千種に感謝を告げに行く。
八ツ俣の支配を受けながらも、千種の責任感が村人を救うよう動いていた。
意識が混濁していたため、行動や発言に矛盾が生まれていたと判明し、やっぱり悔しくなって姉妹全員で封印された八ツ俣に毒を吐いた。
絢芽の案内で近隣の街に移住し、最初は村人たちのフォローで忙しなかった。
ようやく落ち着きをみせたとき、冬萌の温度に秋が過ぎていたことに気づいた。
「わたしね、苦しかったの。期待にこたえなきゃって。頑張れば頑張るほどみんなと遠くなって、それでさみしかったのかな」
姉妹で焚火を囲み、千種が長年せき止めていた想いを口にする。
心にぽっかりと穴が空いた感覚と、矛盾する鉛の重さを抱いていたそうだ。
「ごめんなさい。そんな隙をつかれるなんて思ってもいなくて」
「千種ねぇ……」
上から覆いかぶさるように千種に抱きつくと、残りの姉妹も身を寄せあった。
少しずつ欠けてしまったものを取り戻していこう。
自分を許せるように、何度でも愛情を確認していこうと約束をした。
翌日、私は白い息を吐きながら宿への帰り道を歩いていた。
朝早くから育葉と夏生に引っ張られ、湯に突き飛ばされてと忙しない一日を過ごす。
いったい何だと疑問に思いながらも、肌がツルンとして気分は良かった。
「そろそろ落ちついてきたし、アタシらはいったん天満山に戻ろうと思うんだ」
後頭部に両手を回し、足を大きくあげて大胆に歩く夏生。
はしたないと育葉が腕を叩いても、夏生は「やなこった」と身をひるがえして前に出た。
「千種ねぇと絢芽ちゃんはこの町に残るそうよ。……といっても絢芽ちゃんはふらっとどこかに行きそうだけど」
「守里は斎成町に帰るってさ。植実は伊佐治てぇ奴に会ってまた戻ってくるとか」
「そっか。……八恵ちゃんは?」
「八恵にはまだ聞けてねーなぁ」
「あまり人の多いところは嫌がるかもね。まぁ誰かについていく形になるかな?」
二人の言葉に、各々で選択をする時期が来たと悟る。
バラバラになってもすぐに千種を中心として集まるだろうが、縛りがなくなった今、自立していく大切さも身に染みて感じていた。
(お姉ちゃんたちが大好き。深琴とは……)
唇を最初に奪った人が夫となる。
ずっとその価値観を持って生きてきたため、不服ながらも旅をしてきた。
今は自分の意思で深琴と夫婦になると決めた。
育葉もまた、珀斗と妻として生きるようだが、それは好きだからが理由だ。
はじめての口づけ相手が珀斗でなかったとしても、結局は珀斗を選んでいたと頬を染めて可憐に微笑んでいた。
育葉ほど自信をもって最後は深琴を選んでいたと言い切れない。
だけど確かに今、許せない気持ちを持っていてもなお、感謝の気持ちが上回っている。
枯れ葉に敷き詰められていた世界が、空知られぬ雪として淡く染め変えられていた。
(これも毒みたいだ。まぁ、出会って早々、重たすぎる感情を飲まされたからなぁ)
やはり重たすぎて吐き出したい。
でも案外悪くない。
あの最悪な口づけから、本当の人生が始まったんだと、一瞬だけ毒づく気持ちに口角が緩んだ。
許せないことであっても、それを上回る誠実さがあれば変わる可能性はあるんだと、晴れやかな空が教えてくれた。
「さてさて。育葉や守里のは別の機会にやるとして……」
夏生が私の手首を掴むと、大きく一歩を踏み出して青く澄み渡る空を指す。
「この先の道、晴れ模様! 妹を誰よりも祝福するのが姉ってもんだ!」
「えっ! 夏生ねぇ!?」
「晴れているうちに楽しみましょう!」
「育葉ちゃん!?」
反対の手は育葉にとられて、二人に引かれて町のど真ん中を駆ける。
宿に戻れば他の姉妹たちが大きく手を振って出迎えてくれた。




