9.八ツ俣封じ完了!
それから珀斗の力を借り、全員で安全な場所まで移動する。
珀斗は水神様のいとし子である八恵を意識してか、何度もジロリと睨んでいた。
基本的に男性が苦手ではあるが、珀斗に対しては敏感なようで短く悲鳴を上げると穂乃花の背に隠れてしまう極端さを見せていた。
「穂乃花お姉ちゃああああん!」
子どものように泣きわめく姿に、私はお姉ちゃんらしい気持ちを取り戻す。
こんなにも泣き虫な子が必死にがんばったと思うと、愛くるしくてたまらなかった。
「さすがは私の妹だよおぉ!」
「うっ! 穂乃花お姉ちゃ……! くるじっ……!」
「やーえーーっ!!」
「ふぎゅっ!」
夏生が突進して八恵に抱きついてくると、髪がぐしゃぐしゃになるほど撫で繰り回す。
ただでさえくせ毛に悩んでいるんだと、八恵は反抗期になってぎゃんぎゃん吠えていた。
それも可愛い照れ隠しと知る姉妹たちは、顔をにちゃっとさせて生ぬるく見守っていた。
「八恵たん」
絢芽が歩いてきて、両手を広げて八恵を真っ直ぐに見つめる。
震えていた八恵が鼻水を垂らし、嗚咽をあげながら絢芽に飛びついた。
それに続くように、千種が私のとなりで立ち止まる。
目が合った瞬間、押し殺していた緊張が一気に解けて私は千種の胸に顔を埋めていた。
「もう……わたしが先に抱きつきたかったのになぁ」
「千種ねぇーっ! 私から抱きつくに決まってるよぉ!」
「……うん。伝えるのが遅くなっちゃったけど」
千種は私の耳飾りを指先で撫でると、土で温めていた種を芽吹かせて色づき始めた桜色に染めていた。
「大好き」
「うん。わたしも大好き」
それから千種は一人一人と抱きしめ合い、憑き物が落ちたように軽快に笑っていた。
千年のわだかまりが解けて、望んだ形で勝利を掴んだと胸が熱くなる。
巫女であることに変わりはないけれど、自分たちを縛るものではなく生きる指針として自由に生きていける未来を感じていた。
「穂乃花」
深琴が戦いで乱れていた私の髪に触れ、解けかけのリボンを結びなおす。
「あ、ありがと……」
自由になったということは、私の選択も縛られないということ。
その上でこの人のお嫁さんでありたいと願う乙女の純情さにソワソワと身を揺らした。
「深琴!」
くすぐったさに視線をさ迷わせていると、千種が鬼のような形相で駆け寄ってきて深琴の腕をがっしりと掴む。
「いい!? 穂乃花ちゃんはやきもち焼きだからヘラヘラしてると平手打ちがくるからね。そうね、お花が好きよ。あっ、ガラス玉も好きだったかな。運動は得意よ。女の子らしいことは大好きだけどカッコいい女性にも憧れている中途半端さはあるわね。お祝い事には敏感で泥んこになって花を摘んでくることも――」
「わあああああ!! 千種ねぇぇええええっ!!」
弾丸のような千種の過保護さが飛び出し、穂乃花は慌てて千種の口を押さえにいく。
そして目尻を尖らせ、深琴に振り返ると焦げ付く羞恥心を叫んだ。
「み、深琴のばか!」
「えっ? オレなの?」
(千種ねぇの気持ちはうれしいけど爆発しすぎ! こんなの恥ずかしいわ!)
「怒ってる穂乃花もかわいいよ」
「ひっ!? バカ! そういうところが嫌いなのよ!」
時と場所を考えてくれ。
さらっと言われるとこちらも受け止め方がわからず、先に悪寒がきてしまう。
好きよりも「何言ってんだコイツ」が来るあたり、夢見る乙女の思考とは程遠く、腕をさすることで中和した。
「ひゅーひゅー」
「植実ちゃん。今度一緒にホットケーキを食べに行きましょう。甘くておいしいのよぉ」
「食べてみたいのら! ホットケーキ! ホットケーキなのら!」
後ろで姉たちのガヤが聞こえたが今は耳を塞ぐ。
こうして八ツ俣封じは完了。
誰も人柱になることなく生きている歓びを噛みしめ合った。




