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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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9.姉妹の絆


素早く八恵が身を引いて、八ツ俣の攻撃が届かない場所まで急上昇する。


腕の中でたしかに胸を起伏させる千種を感じ、息せき切って感情のまま抱きついた。


「千種ねぇ! 千種ねぇー!!」


「ごめんなさい。ごめんなさい、穂乃花ちゃん! みんな、ごめ……!」


「わあああ! 千種ねぇが戻ってきたー!!」


千種が感傷的になって謝ろうとするが、それを妨げるように姉妹たちが飛びついてくる。


ずっと心配して、緊張していた状態が一気に解けて、全員が妹の顔をしてわんわんと泣きついていた。


千種は唇を震わせ、ぐっと天を仰ぐように首を伸ばす。


そして姉妹一人一人と目を合わせ、大胆不敵に微笑むと立ち上がり、暴走する八ツ俣へ視点を定めた。



「ありがとう。わたし、大事なことを思い出したよ。あとでいっぱいお礼をするからね! みんなで八ツ俣を、今度こそ封印しましょう!」


「「がってん!!」」



全員で天に向かって拳を突き出し、恐れ知らずに笑みを咲かせた。



「千種ちゃん、鏡なのら」


一度手放してしまった鏡を植実が拾い、千種に差しだす。


八ツ俣の汚染が抜け、本来のあるべき輝きを取り戻した鏡に千種は頬を赤くして泣き笑いをする。


そして鏡を受け取り、姉妹と分け合った勾玉を握りしめて、前に進み出た。



『グアアアアアアッ!!』


閃光が太陽をさすように伸びて、切っ先が流れ星のように光る。


白い虎にまたがり、勝利に微笑む剣士が七本の尾を斬り飛ばしていた。


切断された尾が落下し、泥が空に弾いて血の雨が降る。


それを八恵が吹き飛ばしてやると鳴き声をあげ、横殴りに尾を振った。


あまりの勢いに全員八恵のたてがみにしがみつき、迫力満点な暴走にケラケラと笑った。


(全然怖くないや)


八恵が平地に降り立つと、龍の姿から元の末妹の顔に戻る。


気弱な微笑みは変わらないけれど、姉のことが大好きだと心からにじみ出る幸せそうな笑顔だった。


劣等感はそう簡単に消えないけれど、千種には千種なりのプライドがある。


揺るがなかったのは、長女であることに悩みながらも長女であり続けようと戦ったことだ。



「勾玉! みんな陣を組んで!」


最後に姉妹を引っ張るのは千種だ。


八ツ俣が大ダメージを受け、動けなくなっている今が好機。


全員が勾玉を手に陣を組む。


指を交差させ、勾玉を親指で挟み、八ツ俣を封印するために力を注いだ。



「「千の種が芽吹き、葉を育て、夏を生きる」」


「「植えたものが実り、里を守る穂となり花のように咲く」」


「「八つの恵みよ 調和し生きとし生けるものの流れとなれ」」



勾玉が熱を帯びていく。


それぞれの勾玉から光の糸が伸びて八つの星の陣を描いた。



「「八星巡る 夢の如く相似たり 荒ぶる魂よ 鎮まりくださいませ!」」



千種の持つ鏡から真っ直ぐに光の川となって八ツ俣に伸びていく。


そこに珀斗の背に乗った深琴が八ツ俣へ斬りかかり、三つの光が一つの柱となり八ツ俣を足元から飲み込んだ。



『くそおおおお! 巫女ふぜいがあああああっ!?』


断末魔とともに光が広がって、暗雲を押しのけて空を割る。


蒼穹が顔を出し、てっぺんにまで昇った日輪の陽射しが大地を照らした。


遠くに見える茜色の景色から、淀んだ土に埋まってしまい黒く染められた地面まで、平等に光を届けていた。


千種の手から鏡が離れていき、宙に浮いた無慙無愧の魂を吸い込んでいく。


そこに深琴からも離れた剣が浮遊して、真上から鏡面に突き刺さる。


八人姉妹の勾玉は鏡を囲む形で星を描き、最後はすべての神器が水鞠のように弾けて消えた。



「勝った……」


熱い吐息が漏れる。


身体をめぐる血が早くなり、じわじわと身震いが実感をもたらしていく。


泥だらけだった身なりが雨に流されて、玲瓏な空気が広がって長年積もっていた埃を振り払ってくれた。


傷跡残る濡れた大地で、八人姉妹が揃い、同時に顔を合わせて走り出す。



「よっしゃあああ! 生き残ったぞ!」


「みんな無事なのら~!」


「よかったぁ~。みんなよぉくがんばったねぇ」



千年分の涙と笑顔が一つになる。


各々に言いたくてたまらなかった生き残りの叫びに、天が祝福してくれているような気がした。


「ありがとう。みんな、本当にありがとう。……大好き」


一人一人の言葉を聞いて千種は嗚咽をあげながら姉妹全員を抱きしめる。


きっと千種は「ごめんなさい」ではなくずっと「ありがとう」と言いたかった。


大好きな妹たちを一番に認めているのは自分でありたいと。


ほんの少しの隙が毒に汚染されただけで、千種の本質は変わらない。


その証拠に人の魂の色を見る植実が、千種の色を変わらないと口にした。


千種はみんなの憧れであり、大好きな姉だった。


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