9.勝とう、絶対に
(うん! わかんない! 後回しにしよう!)
考えるとキリがないと切り替えて、勾玉を握りしめると薙刀を構えなおす。
絢芽と守里、植実が珀斗から下り、各々の武器を構えて八ツ俣を睨みつけた。
「うみたん。千種ちゃんはどう見える?」
「変わらないのら! 同じキレイな色なのら!」
「そう……。やっぱり千種ちゃん自身が染まってるわけではないということね!」
千種の高潔な魂はそのまま。
八ツ俣によって毒を浴びせられただけだ。
それならば答えは見えたも同然。
毒を浄化できるのは、絶対に相手を思う心だって証明するんだ。
その覚悟が勾玉に呼応する。
巾着袋にしまっていた勾玉が一斉に飛びだし、元の持ち主の手へ収まっていく。
私も自分の勾玉をたしかに入手した。
それを手に取った瞬間、私は自分の力を恐れることなく勾玉で一閃を引いた。
『ギィアアアアアアアアッ!?』
肉を裂く感触のあとに血の雨が降り、結界に弾かれてあたりに拡散する。
切断面からおどろおどろしい血が溢れ、粘り気が固まりとなって土砂に埋もれた大地に落ちていった。
自らの意思で狭間を利用するのは難しい。
また姉妹たちを飲み込んで暗闇に閉じ込めてしまうかもしれない。
だけど千年経ってなお、姉妹たちは私を愛してくれた。
その揺るがない事実があれば、戦っていけるんだ。
「穂乃花! お前すげぇな!」
瑠璃色の耳飾りが剣の光を帯びてキラリと光る。
不意打ちで抱きしめられると、せっかくの緊迫感が緩みそうになった。
相変わらず大事な場面で茶化すと、唇を尖らせて深琴の背中を叩こうとしたが、寸でのところで回避されてしまった。
「やっぱり潜在能力は穂乃花たん、ずば抜けてるわね」
絢芽の声にハッとして振り向くと、なぜか絢芽が後方で鼻を高くし、わかってるぞと言いたげに頷いていた。
「八ツ俣に食われそうになったワタシたちを引きこむくらいだもの。あれくらいは飲み込めるってことね」
「いやいや! そんなすごくない! ……でも今はいい! 千種ねぇを取り戻せるならなんだっていいよ!」
儀式に失敗した。
あの時の痛みは消えない。
何度だって傷を抉るだろう。
それでも巫女として、妹として、たしかに一歩を踏み出した。
それが何よりも身を軽くし、自信に繋がっていく。
背筋を伸ばして凛と立ち、天に拳を突き出した。
「勝とう! 絶対に!」
「「がってん!」」
負ける気がしない。
こんなにも勇気に満ちることがあるんだ。
恐れるものなんて何一つないと私はしゃがみこみ、八恵の胴体をひと撫でした。
「八恵ちゃんも。行こう」
「きゅっ!」
もう一度、ここからやり直していくんだと気合を入れなおし、深琴に駆け寄る。
白く輝く剣を持つ深琴の手にそっと触れ、思いを託す。
すると深琴が勝利を確信した笑みを浮かべ、穂乃花と分け合った瑠璃の耳飾りを小突いた。
「終わったらキスしよう」
「なっ! バカッ! この変態! 大嫌い!」
大嫌いだけど、大好きだ。
このお調子者が許せないけど、救われるところもちゃんとあるから。
狭間を利用して斬り付けたことが、八ツ俣にかなりの影響を及ぼしている。
身体を修復しようと血の海を尾に吸い込んでおり、その頭上で千種が瞳を虚ろにさせながらも葛藤している様子が見て取れた。
「夏生! 鏡を狙って! 八ツ俣は破魔の力は弾けない! 鏡に吸い込まれた矢が効いてると思う!」
突破口を見つけようと必死になっていた育葉が、夏生に叫ぶ。
すぐに理解を示した夏生が弓を構え、即座に鏡を狙って矢を飛ばした。
それを止めようと千種が鏡を突きだすと、眩い光が拡散して矢は吸い込まれていく。
ほんの一瞬、千種の表情が歪み、腕が不安定に揺れた。
――パァンッ!
鏡の内部で破魔の力が溢れ出すと同時に、深琴の持つ剣が燦々と光を放つ。
「八ツ俣を斬って。信じてるから」
深琴を信じる。
信じきれなかった想いを今、信じる勇気に変えよう。
私の真っすぐな思いに深琴は強く頷くと、珀斗の背に飛び乗った。
「おい珀斗! 今やることはわかってるよなぁ?」
深琴の挑発に珀斗は唸り、やけくそに飛び上がって八ツ俣に猛スピードで突っ込んでいく。
「ハアアア"ア"アッ!!」
白く輝く剣を振り上げ、尾を斬り飛ばす。
大地を割る叫びに気後れせず、深琴は次々と尾を斬りつけていった。
その光景にかつて見た剣士の背中を見る。
あの剣士の子孫がいま、時を越えて一緒に戦っている。
今度こそ全員で勝利を掴むと、未来に希望を抱いて薙刀を構えた。
「守里! 穂乃花に集中して結界はれるか!?」
「まかせてぇ~!」
夏生の声に守里が答える。
絢芽に植実、育葉も八ツ俣の攻撃を抑えようと各々に出来ることへ全力投球していった。
「千種ねぇ!」
「キューッ!」
千種の前まで八恵が突進し、私は八ツ俣に飛び乗った。
千種の正面に立ち、支配の元となる八ツ俣が汚染した鏡の面を薙刀で突き破る。
『ギャアアアアアッ!!』
鏡の面が中心からヒビを広げ、破片が飛び散った。
私は鋭利な破片に臆することなく、千種に向かって手を伸ばす。
「千種ねぇ! 掴んで!」
瞳に光を取り戻した千種が、泣き叫ぶように私の手を掴む。
八ツ俣が血の弾丸で反撃してくるところを、残りの姉妹が全力で結界を張り、千種を引き上げようと尽くした。




