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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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9.大好きな姉妹を傷つけて許せるわけない!

大好きだから苦しい。


比較して苦しい。


暴力的になって自己嫌悪する。


思うようにいかない。


空回る。


だけど叫べない。


弱さを見せたらみんな、去ってしまう。


嫌わないで。


醜くても愛してよ。


他人軸で生きるなとよく言うけれど、それが出来たら苦労はしない。


だから頼っていいよ。


姉妹全員で引っ張り出すから。


相手のことも、自分のことも、許せなくたって、大好きな姉を諦めるくらいなら愛は語れないんだ!


「大好きよ……。好きだから嫌なの……」


距離があっても千種の声は心に響くように届いた。


「大好きなのに、大好きな姉妹を傷つけて許せるわけないでしょ! なのに傷つける選択しか出来なくて、嫌にならないはずがない!!」


打ちのめされて打ちのめされて。


自分を責めて傷を抉った。


立ち直ろうと気丈に振る舞っても繰り返す。


やがて他人に自分の価値を認めてほしいと委ねてしまう。


そんな絶望の中で、甘いささやきがあれば希望に見えてしまうこともあるだろう。



すがりたくもなる。


その血濡れた手を取ってなお、救われたいと願う自分をまた責める。


下手に希望が見えてしまうから諦められない。


希望の先に待つのは絶望かもしれない。


そんな終わりのない絶望ループにはまって、希望にだけ焦がれている。


人の愛おしいはずの感情を、利用する相手なんてそれこそ許せるはずがなかった。



「八ツ俣! 絶対にあんたを許さない! 千種ねぇを返せ! 千種ねぇのこと好きなのは私たちだ! だからこの手を取って! 千種ねぇー!!」


辛いことはあったとわかった。


巫女としての責務の重さに苦しんできたんだろう。


一度たりとも片鱗を見せたことはなかったけれど、それもまた千種の愛情の一つだった。



いとしい妹たちを前にカッコつけたい。


そんな千種を好きだと言って何が悪い!


それが八人姉妹の長女・千種の生き方なんだから!



「きゅぅうううっ!!」


八恵が尻尾を大きく振り、雨を吹き飛ばす速さで八ツ俣に突っ込んでいく。


夏生が破魔矢を放ち、八ツ俣に少しでもダメージを与えようと葛藤する。


八ツ俣の金の目がニタリと笑むと、巨大な足で大地を踏み鳴らした。



あまりの轟音。


地響きで鼓膜がやぶれそうだ。


耳を塞ぎ耐えていると、ふと音が消し飛ぶように消えた。



「夏生! 穂乃花ちゃん!」


大地の揺れがおさまり、霧の向こうから白銀に輝く白い虎が姿を現した。


このタイミングを逃すまいと夏生は再び弓を構え、八ツ俣の目を狙って矢を飛ばす。


夏生の腕前は百発百中。


破魔の力が加わり、一切のぶれなく八ツ俣の目に突き刺さろうとした。



「くそっ!」


千種が鏡を向けると矢の軌道が変わり、鏡の中に吸い込まれる。


八ツ俣がおぞましい笑い声をあげ、八本の尾のうち一本で八恵の龍体を薙ぎ払おうとした。


「させないわよっ!」


育葉の怒声にあわせ、珀斗が前に出る。


銀色の尻尾を思いきり振ると、突風が吹き荒れて八ツ俣の胴体を斬りつけた。


赤黒い血が噴きだし、腹からただれる血が土壌を汚染していく。


一人では敵わなくても、個々の力を合わせれば八ツ俣なんて怖くない。


この場にいる全員が強気になって、千種を取り戻そうと団結した。



「穂乃花ちゃんおまたせぇ! 夏生ちゃん久しぶりねぇ~!」


「おおー! 守里! 相変わらずゆったりしてるなぁ!」


「八恵ちゃん、がんばったのら! えらいのら!」


植実が珀斗の上から飛び降りると八恵の耳に抱きついて、小さな手でよしよしと撫でる。


それに八恵はくすぐったそうにきゅうきゅう鳴いて尻尾を揺らしていた。



「みーくん無事ね。ここからが本番だけどいけるわよね?」


「余裕。姉さんを失望させることはぜってーねぇから」


「ふふっ、それは頼もしいこと」


貴重な絢芽の微笑みにはついドキッとしてしまう。


非常時であってもこればかりは耐性がつかない。


鉄仮面の微笑みは威力が半端ないと、全員がまぶしさに胸をおさえていた。



「さっき音をかき消したのって……」


「絢芽ちゃんの歌よぉ。音ってすごいよねぇ~」


「おいおい、なんでもありだなぁ。さすが姉さんだぜ」


頭部を負傷したことで前に出るのは厳しいが、音に関しては絢芽に敵うものはいない。


八ツ俣でさえねじ伏せる音を操る達人だ。



「千種ねぇは!?」


「まだ! あの鏡、アタシの矢を飲み込みやがった!」


「……飲み込む、ね」


育葉が夏生の言葉に眉をひそめ、思案する。


だが考えている余裕はなく、再び地響きが鳴りはじめた。


定位置にいては危ないと八恵と珀斗は急いで空高く飛びあがる。


『なるほど。風神を味方につけたか。これは厄介だ』


「風神?」


目を丸くし、珀斗に視線を移すと育葉がにこりと珀斗の獣耳を撫でた。


「珀斗ってすごいでしょ?」


「ほ、本当に風神様なの!?」


「うふふ。珀斗はね、水神様と同列なんだから」


「穂乃花は修行が足りねぇな!」


わけがわからないと目が回ってしまう。


つまり珀斗は八百万の神ということになる。


水神様と同等の立ち位置、となれば八恵と非常に近しい存在で……。


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