10.エピローグ②
「おかえりなのら!」
「穂乃花たん、肌が艶めいてステキよ」
「えっ? えぇ? お姉ちゃんたち、どうしたの?」
こんな全員で出迎えてくるとは何ごとかと困惑していると、守里が私を家屋の中に押し込んでくる。
わけもわからず足をもたつかせていると、中に待ち構えていた深琴が私を受け止めた。
「深琴!? えっ、その恰好……」
「いやぁ! 姉さんたちは愉快な人だ!」
黒紋付の羽織に袴姿の深琴が爽やかに笑んでいる。
「千種様が用意してくださったんだ! カッコイイだろ?」
どう見ても婚姻のための衣装だ。
何故このような流れにとオロオロしていると、千種がしっとりした手が私の頬を撫でてきた。
「気が早いかもしれないけど、夫婦になったならちゃんとしないとね」
妹想いのやさしい感情が、手のひらを通じて私の中に広がっていく。
感極まって涙がこぼれると、千種が笑いながら指で拭ってくれた。
それが許せない気持ちも、好きになったことも、全部をそのままでいいんだよと言ってもらえている気がして胸が詰まった。
それから姉妹たちの手を借りて白無垢姿となる。
「穂乃花お姉ちゃん。すっごく綺麗」
八恵が穂乃花の右手をとり、視界がにじむのをなんとか堪えようと唇を丸めている。
すでに鼻水でべそべそになっているので、祝福とまだまだ寂しい葛藤が入り混じっているのだろう。
そんな泣き虫で心優しい妹をこれからも愛でたかった。
反対の手を千種がとって、姉妹たちが道を作る。
神社で行うような立派な式ではないが、大好きな姉たちの作る道を歩く以上に幸せなことはないだろう。
外に出れば空は太陽が顔を出し、白い光の粒が降らせていた。
「穂乃花」
千種と八恵の手を離れ、深琴が差し出す手に指先を重ねる。
そっと指先を丸めて、お互いのぬくもりを確かめるように指を絡めた。
「乙女の純情に毒を飲ませたこと、許してないからね」
「手厳しい。でも反省してます。……その分、穂乃花の笑顔を増やしていくから! そんでさ、わがままかもしれねーけど死ぬ前に許してもらえる夫になるよ。……オレのお嫁さんになってくれるかい?」
「――はい」
なんて難しい挑戦だろう。
だけどそれくらい傷つけたんだって考えてほしい。
どうかこれからは、毒よりもずっとずっと甘くてやさしいものを飲ませて――。
「んんっ!?」
姉妹たちが息を呑んで頬を染めているのがわかる。
言った傍からこの腹立つ男は、私の両頬を上向きにさせて毒を注いでくる。
何だこの辱めは。
よりにもよって姉妹たちの前でこんな下品でロマンのない結婚を見せることになるとは――!
「あー、かわいい。気持ちが通じたキスってのはいいねぇ」
「だから嫌いなのよーっ! この最低最悪胸糞蹂躙男がーっ!」
晴れやかな小春日和の空の下。
清々しいほどスパーンとした平手打ちが乾いた音を響かせた。
あぁ、皮肉。
新しい歩みも毒を飲まされて始まってしまった。
汚染は止まらない。
すっかり麻痺してしまった頭に、当分は悩みの種を抱える羽目になりそうだ。
口づけからはじまった一方通行の夫婦旅。
怒り心頭ではじまった双方の夫婦生活は甘くない。
純情乙女の潔癖巫女様は、毒に侵されながらも強く生きていこうと決意するのだった。
「了」




