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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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8.深琴の悪夢

「深琴を助けられるならなんでもする。悪夢のせいで深琴が帰ってこないなら連れ戻しに行く」


ずっと強がりを支えてもらった。


いつまでも泣いていては深琴が余計に笑うしかなくなってしまう。


今度は私が深琴を助ける番だと、育葉の手を取った。


「なんだかちょっと妬けちゃう」


育葉がもの憂いに微笑んで、私の目尻に残った涙を拭う。


「悪夢は苦しいよ。入ったところで戻ってこられる確証はない。……好きな人を助けにいくのね?」


愛情に満ちた問いに、私はきっと恋い慕う乙女の顔になって頷いていただろう。


「旦那さんを助けにいくの。夫を守るのも嫁の務めでしょ?」


「ふふっ。そうね。男の人は頼りないところがあるもの」


育葉は私の手を握り返し、距離を縮めて額をコツンと合わせてくる。


(大丈夫。がんばれる)


大好きな姉たちが応援して待っていてくれるのだから。



眠ったままの深琴の隣に横になって、指を絡めて氷のように冷え切った手を握る。


耳たぶに穴を開ける瑠璃の耳飾りを見て、同じ色を揺らしてほしいと欲を抱いた。


「悪夢はすごく危険よ。最悪、戻ってこれなくなる」


「うん」


「私の力はみんなに比べたら弱い。それでも行くのね?」


育葉なりの背中を押す言葉に、私の口角は花開くように緩んだ。


「育葉ちゃんを信じてる。それにお嫁さんが旦那さんを尻に敷くくらいがちょうどいいんだから」


「……そうね。いってらっしゃい、穂乃花ちゃん」


「穂乃花! 必ず戻って来いよ!」


姉たちに見送られ、何の不安もなく目を閉じた。




意識がどんどん下に落ちていく感覚がして、いつのまにか身体は真っ黒な空間に浮いていた。


まるで狭間みたいだと、唾をのみ込んで下へ下へと向かう。


やがて天霧らす空の下に出て、紅葉織りなす景色を抜けて土草の茂る香りが私を包み込んだ。



(ここは……)


間違いない。


暁月村に並ぶあの山だ。


木漏れ日に手をかざすと、身体が透けているのがわかる。


どうやら夢の中に入り込んではいるが、私の存在は透明なのだろう。


深琴の見ている夢のため、必ずどこかにいるはずだと木々を抜けて進みだした。



ガサガサと草をかきわける音の後に、無邪気な笑い声が続く。


とっさに木の陰に隠れると、茂みから二人組が元気よく飛びだしてきた。


「深琴ーっ! 早く登ってこいよー!」


弾け調子の声に心臓が跳ねる。


声を追いかけて顔を上げると、出会った時よりも幾分か幼い相良が大きく手を振っていた。


「まったく、おめーさんはなんでそんなに元気なんだか。山猿かっての」


背後からの声に振り向くと、私の横を少し若い深琴が通過する。


「そんな雑な喋りだと村長に怒られっぞ! それに“深琴様”ともあろう方が人を山猿扱いするってかぁ?」


「けっ! 知るか! 堅苦しいのはごめんだあ!」


同じように今よりも年若い少年の深琴が山を駆けのぼっていく。


両耳で瑠璃の耳飾りが揺れていた。


今よりずっと長い髪を一つにくくり、屈託なく笑う姿に胸が高鳴った。


どんどん先へ進んでしまう背中に惚けているうちに、二人の姿が小さくなってしまう。


(もう、何してるの穂乃花! 追いかけないと!)


小袖の裾を持ち上げ、走ってたどり着いたのは岩戸の真上。


剣が岩に刺さっており、苔で元の輝きが埋もれている。


――八ツ俣を封じる儀式で使った剣だ。



(ここ、八恵ちゃんが隠れていた岩戸の上だ)


八恵が狭間からこの場所に落ちたのかもしれない。


姉妹は全員バラバラの場所に落ちた。


千年の眠りにつきながらも、八恵はずっと剣を守っていたのだろう。


眠っていたため玉響のように感じられたが、現実は千歳だ。


こうして再会できたのは本当に奇跡のようなものだった。



「深琴! これがあの剣なんだろ!?」


相良が苔だらけの剣を指す。


「これが本当に八ツ俣を斬った剣なのか? めちゃくちゃボロいじゃん。なぁ、深琴。本当にこんなのを抜くのか?」


「抜いてやるさ! 親父め、オレには抜けねえってんなら抜いてやるっての!」


「今まで抜けた人いねぇんだろ? 深琴に抜かれたらたまったもんじゃねぇな!」


「見てろ! オレがその辺の野郎どもとは格がちげぇって証明してやるよ!」


仁王立ちになって空に拳を突き出すと、太陽の光が燦々と注いで深琴を照らす。


圧倒的な輝きに、幾年も前に戦い抜いた剣士の面影を深琴に見た。


(やっぱり、深琴はあの人の末裔なんだ。あの人の方がずっと大人っぽかったけどね)


深琴が自信満々に剣の掴み、相良の囃し立てにのって腕を上げた。


「《ダメ……!》」


事の顛末を知る私は急いで深琴に手を伸ばす。


だが私の手は深琴の身体を通り抜け、振り返ろうとするもすでに遅く……。



カラン……。


苔がバラバラとはがれ、剣が引き抜かれたと同時に刀身が折れた。

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