7.八恵に会いたい
♡♡♡ 七 ♡♡♡
翌日、八恵を探しに暁月村の裏にある山へ向かった。
私と深琴、そして絢芽で会いに行くことにしたが……。
「絢芽ちゃん、そんなに荷物もって何が入っているの?」
「食料と着替え、あと寝袋ね。八恵たんは出てくるまでに時間がかかるでしょう。ワタシがいると特に」
八恵は泣き虫で逃げ癖があり、一度隠れてしまえばなかなか出てこない。
そこが意外と厄介なのだが、皮肉にも絢芽がいると悪化する。
(仲が悪いとは違うんだよねぇ。絢芽ちゃんの圧が強いというかなんというか……)
末妹ということもあり、絢芽の愛情が爆発しているだけだった。
「いつも隠れていた岩戸。八恵たんがいるとしたらそこしかないわ」
暁月村は私たち八人姉妹が生まれ育った場所の現在の姿。
過去の記憶に照らすと、八恵が隠れているところはわかりきったことだと全員納得の上で進む。
「穂乃花たんは八恵たんを出そうと一生懸命だったわね」
「あー、そうだね。……懐かしい」
「出すって、岩戸からか? 何をしたら出てくるんだ?」
深琴の疑問に私は当時を思い出し、くすぐったさに足を軽快に動かした。
「踊るの。こう見えて私、踊りが得意なんだから」
「知ってる。昨日の宴会でちょっと踊ってただろ?」
「うそっ! 深琴は泉に行ってたから見てるわけ……」
「それくらいの時間はあったって。今度一緒に踊るか? オレもこう見えて踊るのは得意だ。なんだったら夜に部屋で踊ってもいい――」
言い切らないうちに私は後ろから深琴に体当たりを食らわす。
「やっぱり無理! きもちわるっ! なんで男の人ってこうなの!? 甘さの欠片もないわ!」
溺れるような恋人関係なんてはじめから無理だった。
相手が深琴なのだから夢を抱いたところで塵と化すだけ。
さっさと諦めてしまえばいいのに、長年温めてきた乙女思考は深琴を汚らしいと排除しようとしていた。
「みーくん。穂乃花ちゃんはデカいわよ」
当然、この場にいる絢芽も会話を耳にしているわけで。
「ですよね。まだまともに触らせてもらったことはないんですよねぇ」
(イーーーヤーーーッ!!)
こういうデリカシーのなさはやっぱり嫌いだ!
特に絢芽と会話をさせたら見境がない。
触るな危険。
こんな下品な会話は害悪。
ましてやかわいいかわいい末妹の八恵には到底聞かせられたものではなかった。
八恵を思い、足が止まる。
あの八恵に姉妹をあざむく器用さがあるとは思えない。
何かが根本的に間違っているような……。
けれども八恵に話を聞かねば解決しないのも事実のため、今は疑念を飲み込むことにした。
そうして耳をふさぎながら山を登っているうちに、懐かしい巨大な岩壁の前へとたどりついていた。
「みーくんはここによく来たのかしら?」
千年前よりも苔むした岩場を深琴が見上げ、もの思いに息を吐く。
「ここは遊び場みたいなものだったんで。この岩の上に剣が刺さっていたんです」
深琴が原因で折れてしまったと語られる剣。
その詳細は聞いていないが、深琴が自分を罰して剣を直す旅に出た。
坂道を登る以上に汗をにじませる姿をずっと隣で見てきた分、伊佐治と通じて剣を取り戻したときの安堵した表情は忘れられない。
どうかもう罪を背負わないで。
深琴は精一杯がんばって、成すべきことを成したのだから。
今からは私が頑張る番だと、岩戸を見上げてそっと手のひらを触れさせた。
「やーえちゃん。迎えに来たよ」
岩に頬を寄せ、強めに岩をコンコンと叩いてみる。
振動が伝わる大きさでもないのに、同じように音が返ってきた。
こうして私と八恵は届かない音を聞き取って、リズムで会話をしながら心を通わせていた。
「お姉ちゃんたちも待ってる。みんな八恵ちゃんに会いたがってるよ」
シン……。
途端に音は止まった。
(さて、どうしよう。踊ったら出てくるかな?)
果たしてそう単純にいくのか?
姉妹喧嘩とは違うので、踊ったくらいでなんとかなるとは思えなかった。
そこに深琴が歩いてきて、私の真似をして岩をコンコンと鳴らす。
「やーえちゃん。はじめまして、穂乃花の夫の深琴でっす」
反応はないが、八恵には聞こえているはずだ。
だがなんとなく八恵の様子は想像できてしまい、深琴が前に出るのは地雷だと腕を引っ張った。
「ちょっと。今はふざけてる時じゃ……」
「オレのポリシーでぃ。ご家族には挨拶をする。八恵ちゃんは大事な妹だからな」
「そっ、れはそうだけど……」
そういう問題ではない。
とはいえ、ちゃんと姉妹を家族として向き合ってくれるのは好感が持てる。
癪に障るのは深琴の口調と軽いノリ。
これまでのズケズケした遠慮のなさが起因してのことだった。
「よし。というわけで穂乃花! 踊るぞ!」
「えっ! はっ、はああ!?」
腰に手を回されると深琴の厚い胸板に直撃してしまう。
慌てて顔を上げるとふざけてニヤッとした笑みを返される。
だけど手つきはいやらしく、愛情が歪んだボディタッチに気持ちが落ち着かない。
反骨精神で距離を縮めてみれば、細身に見えて骨格のしっかりした男性特有のラインに心拍が速まった。
「なによ、この踊りは」
「西洋の踊りさ。男女が恋に落ちるキッカケというわけだ」
「意味わかんない。西洋の踊りなんて知らないわよ」
「心躍るだろ? 愛らしいドレスをきて貴公子と恋に落ちる。まるでオレと穂乃花のためにあるようなもんだ」
「バカじゃないの? ……そんなことで私が落ちるわけ」
言い訳がきかない。
とっくに恋に落ちている。
すでに想いを交わしているため、逃れられないと上目に深琴を睨みつけた。
「う~ん。西洋の歌はわからないけど……」
その光景に乗り気になった絢芽が、メロディーだけの歌をうたいだす。
言葉がない分、情緒に満ちており、八恵に会いに来たはずなのに浮足立ってしまった。




