6.ようこそ暁月村へ
♡♡♡ 六 ♡♡♡
帝都や町村を通過し、暁月村へ一直線。
今は八ツ俣の仮封印もギリギリ保っている状態で、すでにあちこちで水害被害を目の当たりにした。
「ほのちゃん! 向こうからすごいオーラがするのら!」
植実がぴょこぴょこと飛び跳ね、あぜ道の先を指す。
遠目でもまだ人影は見えないが、植実が口にするとは相当強い力が見えているということ。
もう少し先に進まなくては私も判断できない。
しばらくそのまま進むと分かれ道に。
右を進めば暁月村、左を見ればこちらに向かって歩く人影が見えた。
太陽にも負けないくらいの輝きを放っているのに、その眩しさを拒絶するように白い日傘で跳ね返している。
同色のワンピースを風になびかせる姿は舞台役者のようにきびきびしたものだった。
「あら、穂乃花たんにうみたん。久しぶりね。元気そうでなにより」
日傘を下ろし、一つに結った長い藍色の髪をさらりと後ろに流す。
涼やかな目元に、色白さと妖艶さを兼ね備えた美の極み。
無表情でも華やかさを損なうことのない美人は、穂乃花たちを獲物として捕らえ、目をギラギラに光らせた。
「うああああ! 絢芽ちゃん変わってないーっ!」
絢芽は八人姉妹の次女だ。
断トツの美人であり、巫女としても非常に優秀だ。
外に巫女として務めに出ていたため、交流は少なかったが愛情は深い人。
鉄仮面であることが玉に瑕といった具合である。
「絢芽ちゃん、すごい恰好……」
「みんなもらい物よ。困っていたら助けてくれるなんて、みんなやさしいわね」
絢芽は美人すぎて、男の人は骨抜きにされる。
我を忘れて男性は貢ぎたがるのだ。
それを絢芽は良しとして、お布施だとすべてを受け入れていた。
「はじめまして、絢芽姉さん! 穂乃花の夫、深琴と言います! お会いできて光栄です!」
「あら。穂乃花たん、いつのまに結婚を……。憧れの口づけとやらは出来たのかしら?」
「わぁーっ! 違う! いや、違わないけど……。憧れどころか最低最悪よ!」
必死に弁明したが、絢芽にはうまく伝わらず……。
「絢芽姉さんも暁月村へ?」
絢芽を攻略できたかもわからず、深琴はキリッとした夫の顔で問いかける。
「そう。方向は一緒。ワタシ、八恵たんを探しているの」
絢芽の返答に私と植実は首を傾げ、守里に教えてもらった姉妹の居場所を再確認する。
「近くて気づかなかったのら。もう一つ、大きなオーラを感じるのら」
そう言って植実は暁月村とは少しずれた方角を指す。
緑の生い茂る山脈地帯でも特に大きく目立つ山。
千種と八恵が近すぎてオーラが重なって感じていたようだ。
いずれにせよ、二人に会えるなら一石二鳥。
とはいえ、八恵に対して思うところはある。
まずは千種と合流して今後の話をするのが良いと判断したが、絢芽は八恵を優先した。
「絢芽ねぇも、暁月村に行くのら」
「そうね。穂乃花たんたちに会ったのなら話が変わるもの」
絢芽は表情が乏しいだけで頭の中は常にフル回転している。
「どうして八恵ちゃんのところに……」
「千種ちゃんと合流したら話すわ。さ、行きましょう」
考えがあってのことだろうが、絢芽は私たちの前で細かく話したりはしない。
次女という立ち位置を気にしてのことだろうが、それが少し遠く感じてしまう原因なのだろうか。
「それにしても穂乃花たん。また胸が大きくなったわね」
「はっ……あっ、絢芽ちゃん!?」
「お! 絢芽姉さんわかってるなぁ! 穂乃花の魅力の一つだよなぁ」
「ばっ! あんたのそういうところが嫌いなのよー!!」
絢芽がからかうのと深琴に言われるのは違う問題だ。
心許した姉と、私の純真さを侵略した異性では天と地ほどの差があるのだから。
そう、異性に言われると嫌なことなのに……これは慣れなのか。
一歩先を歩く深琴の背を見つめていると、片耳に揺れる瑠璃の耳飾りが視界にチラついた。
(やだ……。こんな見てばかり。……でも、嫌じゃない)
奇妙な落ちつかなさと心臓の騒がしさが肩にずっしりと重みを乗せてきた気がした。
懐かしい景色をみて私の足は止まる。
長いあぜ道を抜けて丘の頂上に立つと、だんだん畑が広がる光景にほぅっと息を吐いた。
いつのまにかこんなに秋の色が濃くなったのだろう。
黄金の稲穂が風でさわさわと音をたて、落ちつく新米の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
(暁月村かぁ。今はそんな名前になったんだね)
「ほのちゃん。懐かしいのら」
「そうだね、うみちゃん。……ただいま戻りました」
少しだけ地形は変わったかもしれないが、胸を満たす空気は変わらない。
いくら眠っていたとはいえ、千年ぶりに大地に足をつけると感慨深いものがあった。
「あっ! 深琴様だ!」
だんだん畑の下り坂から聞こえてきた子どもの声。
深琴を見つけてはしゃぎだす子どもたちの声に、農作業をしていた村人たちも顔を上げた。




