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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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5.結婚、します


「はっ……珀斗? 今……」


「育葉が好きだ」


起きた出来事は間違いでなかったと育葉は実感したようで、身体から力が抜けてへなへなと崩れていく。


困惑する育葉を、珀斗はますます責めたてるように抱き寄せた。



「離れるのが正しい。そう思うことに変わりはない」


湿った声に、育葉が顔をあげて珀斗の顔を覗き込む。


珀斗は想い慕う気持ちが抑えられなくなり、熱のこもった眼差しで育葉を見つめていた。


「叶うなら育葉とともにいたい。その道を選んでいいなら俺はなんだってする」


こんなのにも情熱で、見ている側まで煙が出そうな告白はなかなかお目にかかれない。


いや、一生ないだろう。


空を見上げると青白かった月は珀斗の瞳に似た黄金に戻っていて、育葉の泣き顔に光を降らせていた。



珀斗の胸を手のひらで押し、小さく震えながら育葉は私たちに顔を向けた。


「あの……結婚します……。えっと……旦那さんが出来ちゃった……」


これはたしかに両想いなので祝福すべきことだ。


引き返すことも出来ない愛の宣誓でもある。


「えっ。結婚って……」


この場で育葉の言葉の意味をいまいち理解していない深琴。


自分だって唇を奪った身のくせに何を言っているんだ。


相手にしていられないと無視をすることにして、育葉に拍手を贈った。


「おめでとう、育葉ちゃん」


「ありがとう、穂乃花ちゃん」


「なぁ。いつ結婚するんだ? オレと穂乃花より先?」


「あんたは少し黙ってて」


育葉が幸せに進もうとしているのに水を差さないでほしい。


(両想いの殿方とこうなるのが当たり前なのよ。気持ちの通っていない状態で私は深琴のお嫁さんに……)


不本意ながら妻となってしまった。


はじめての口づけ。


乙女の唇から純潔を奪った者が夫となる。


今更そんな当たり前のことに、奪った側が困惑しないでもらいたいものだ。


私から選択肢を奪った悪魔め。


珀斗のように甘さと切実さがあるのは、同じように唇を奪われたとしても意味合いが違った。




「ところで夏生」


ほのぼのさと甘酸っぱさが混じりあっていた空気が一変。


答えが出たことで迷いをなくした育葉が氷点下の笑みを浮かべて夏生に詰め寄っていく。


「ちょ、育葉? おめでと……っでだだだだだっ!」


「うやむやにはさせないわよぉ? な~つ~き~?」


「アーーーーーッ!! いだっ! 痛すぎっ!?」


再び育葉が夏生の頭をゴリゴリとし、聞いていられない絶叫にそっと耳を塞いだ。


姉の中で一番怒ったら怖いのは育葉と断言できる。


次点で長女の千種だろうかと、ほとぼりが冷めるまで私は黙っていることにした。




「アタシが二人分になる。そしたら育葉は珀斗と一緒になれるんだと思って」


それから観念した夏生は涙目になってすべて洗いざらいに話した。


「それで能力を食らおうと考えてたの?」


呆れた、と育葉はよろめいて夏生の考えを一蹴りした。


「こっちは本気だっての!」


「私がそんなことされて喜ぶとでも!?」


「んなことはどうでもいいね! 育葉の気持ちなんか知るか!」


真剣そのものだった夏生は育葉の態度に苛立ち、謝っていられないと反抗に出る。


どちらも引く気がなさそうだ。


これは長期戦になる、と私はどの立ち位置にいればいいのか思い悩んでこめかみを指で圧した。


そこに深琴が私の頭をやわらかい手つきで撫で、大丈夫だと微笑んできた。


(深琴って、なんでこうも……)


つくづくズルい人だと、ゆらめく焚火を睨みつける。


熱源が近くにあってよかった。


そうでなくては深琴の横顔に見入ってしまいそうな自分に気付かれてしまうから。



「……育葉ちゃんも、人柱にしない」


夏生が育葉を救いたいと願うように、私だって姉妹を愛してる。


だから私も、ここは噓偽りのない気持ちをぶつけようと胸に手を当てた。


「夏生ねぇも、うみちゃんも! 他のみんなも人柱になんかさせない!」


深琴の言葉に確証はない。


信じる根拠なんて提示できるはずもない。


それでも私にだって意地がある。


ここまでの道、ずっと隣にいてくれた人を信じたいと思って何が悪いと胸を張った。


「正直、どうなるかわかんないよ。でも抗ってみたい。悔しいけど、何度考えたってお姉ちゃんたちがいなくなるのは嫌だから!」


千年前の、姉たちが倒れていく忌まわしい記憶を忘れない。


八ツ俣を封印しきれずに「敗れた」と、混乱して狭間を開いてしまった。


狭間に飲み込まれる直前に、妹の八恵が泣いているのを見た。


姉として抱きしめることも出来なかった後悔が、今の穂乃花を突き動かす。



「ダメだったらごめん。ズルいだろうけど、私はみんなに幸せになってほしいよ」


想いを秘めて死地に向かうしかない絶望は見たくない。


どうなるかわからないのなら、未来に希望を抱いて進みたい。


そうして言い切った後、一気に顔が痺れて身が強張り出す。


引き返しは出来なくなり、審判が下されるのを震えて待つしかなかった。


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