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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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5.夏生の願い

♡♡♡ 五 ♡♡♡


「なんで……夏生ねぇ……」


私の戸惑いに、夏生はハッと我に返って両手を前に突き出した。


「いやっ……これはその! 違わないんだけど!」


「あー、っと、夏生ねぇさん。話は聞くからいったん山小屋に戻っていいかい?」


私が泥で汚れてしまったからと、深琴なりの気遣いを見せてくれる。


必死になりすぎて我を顧みることのできなかった私は、改めて自分の身なりがボロボロと知り、顔が熱くなった。


すぐに察して夏生は困ったように笑うと、私の頬を親指で拭った。


「後で話す。……濡れたまんま飛び出すとは、穂乃花もバカだよなぁ」




山小屋の前まで戻ると、珀斗と一緒にいた育葉が真っ青になって私たちに駆け寄ってくる。


「心配した」と口にする育葉に申し訳なく感じていると、夏生がその場を嫌悪するように山小屋に入ってしまった。


「夏生っ!」


それを育葉が追いかけていく。


私たちが戻るまで育葉の傍にいた珀斗が、全員の無事を確認すると黙ってその場から去ろうとした。



「あんた本気なのか?」


珀斗の背に深琴が問いかける。


真意を問う言葉に珀斗が振り返ると、肌の青白さがやけに強く感じられた。


何も言おうとしない珀斗に深琴は舌打ちをし、胸ぐらを掴みにかかる。


「あんたがどうなのかわかんねぇとオレたちも動きようがねぇ。このままだと全員で山を下りるぞ」


「別に。それが最善ならいい」


育葉も珀斗も共通して諦めた空気をまとっている。


育葉の事情なら私も知っているが、珀斗はなぜ、そこまでして育葉への気持ちにブレーキをかけるのだろう。


誰がどう見ても二人は想い合っているのに、詰めていかないのは育葉の拒絶が原因?


二人のことで私が口出しする内容ではないが、育葉を思う妹の一人としては心苦しいものだった。


「なさけねぇな! 男とあろうものが好いた女に告白も出来ねぇってか!?」


「彼女は巫女だ。ましてや八ツ俣を封印するなら俺は邪魔なだけ」


深琴の挑発には一切のらない。


だが私にはそれが謙虚ではなく逃げ腰に見えた。


(私も大分深琴に汚染されてるなぁ)


愚直に気持ちを伝えてくる。


過ちを許すことは出来ないけれど、確固とした意志を貫く姿は胸を焦がすものがあった。


ブレーキがないのが深琴だから、そういうものと受け取っていたがやはり深琴の積極性が珍しいんだ。


奥ゆかしいのを美徳とするか。


乙女心としては不安に振り回されるのを辛く感じてしまう。


自分に自信がなくても、「好き」と言われることで勇気に変えていけたらいいのに。


深琴に反論もせずに去っていく珀斗の背を見送り、私は八つ当たりと称して深琴の背中を叩いた。





それから育葉と夏生は一切口をきいていない。


というより夏生が一方的に耳を塞いでいる状態だ。


空気が悪いまま、夏生は「水浴びしてくる」と育葉を放って外へ出てしまう。


悲しみに暮れる育葉が気がかりだったが、この場は植実にまかせて夏生を追いかけることにした。


山小屋の近くに湧く泉に足をつけ、ボーッと青い月を見上げる夏生。


その隣に腰掛けると、同じように青白く雲がかった月を眺めて息を吐いた。


「育葉は珀斗が好きなんだ。珀斗は目を覚ましたアタシらを助けてくれた」


千年の時から目を覚まし、右も左もわからない状態に陥れば珀斗は救世主だ。


不安定な中で真っ当な優しさを受ければ、いくら鉄壁の巫女だとしても恋に落ちてしまう。


「他の姉妹には悪いけど、アタシは育葉に特別幸せになってほしい。……だからさ、普通に恋愛してほしいんだ」


それが育葉と夏生の絆だ。


私にだって気持ちの偏りはある。


問題はその願いをどうやって叶える気なのか、だ。


深琴の発言に食いついたのは、夏生が真偽をはっきりさせたいが故のこと。


(でももし、人柱が避けられなかったら?)


そんな悲劇の未来なんて考えたくもない。


だが最初はそれを覚悟して、戒めを胸に歩いてきた。


いつの間にか、その枷が軽くなっていて夢を見るようになっていたけれど。



「アタシらは双子。だけど生まれが特殊だった。穂乃花も知ってんだろ?」


夏生の困り果てた作り笑いに胸が痛む。


育葉と夏生は双子ではあったが、片方が巫女としての素質がなく生命力も希薄だった。


「育葉ちゃんが夏生ねぇを助けたんだよね? その……巫女の力を分けたことで」


「そーそー。お互い生まれたばっかで、育葉も覚えてねーだろうけどな。……助けられた、は語弊があるかもしんねーけど」


どういう意味だ? と夏生の顔を覗き込むと、月明かりで青ざめた微笑みが半分、表情に映し出されていた。



「育葉の能力を食った。育葉にだけ使える力だ」


能力を持たなかった夏生は育葉から力を奪い取る。


言うなれば“能力食い”だ。


そのため、育葉と夏生の力は不安定であり、上の姉妹に比べて霊力も弱かった。


夏生は育葉に依存した巫女となり、二人で一人前となった。


だからこそ、夏生の思いは育葉を中心とし、育葉を生かすために存在していた。



「今度はアタシが育葉を助けるんだ。育葉の力を全部吸って、巫女の力を奪う」


「そんなことしたら育葉ちゃんは」


「人柱があるにせよないにせよ。アタシが育葉の分を担う。もう赤子じゃないんだ。ちゃんと二人分としてやっていける」


それでも千種や八恵には敵わないかもしれないが、と誤魔化し笑いをした。


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