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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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4.深琴の切実な求愛

「ほのちゃん、悲しいのら?」


「悲しくないっ!」


植実に当たって馬鹿みたいだ。


気持ちのコントロールが出来ない。


ムカつく。腹立つ。悔しい。


もう嫌だっ!


冷静さを失った私は植実の手を振り払い、行く当てもなく走り出した。



「穂乃花! 行くな!」


深琴が後ろから叫んで追いかけてくる。


絶対に捕まってやるものか。


包帯を巻いて固定していた足も、泥だらけになって傷口は刃物で刺されているみたいだ。


「行かないでくれ、穂乃花……」


だからそんな消え入りそうな声で名前を呼ばないで。


私よりもずっと足の速い深琴が先回りして、強く抱きしめてくる。


抵抗して身を捻るも、すぐに動きは止まった。



(噓つきだ)


止まったのは、私の尊厳に触れられたから。


呼吸を止めてしまう押しつけがましい唇が私のそれに重なる。


こんなのはただの暴力だ。


なのに突き飛ばすことも、殴り飛ばすことも出来ずに目尻から涙が一粒零れ落ちた。


「お願いだ。行かないでくれ」


情けない懇願に私は唇が離れる瞬間に深琴に噛みついた。


一瞬だけ二人の間に赤い糸が伝い、ぐちゃぐちゃになって深琴の腕に爪を立てた。


「噓つき! もう無理やりしないって言った!」


気持ちを待つと、強気に言っていたくせに。


こんな時だけ儚さを醸し出して救われたいと唇を乞うてくるんだ。


「何なの……。ほんっと何なの!? 全然わかんない! はっきりしてよ!」



本当か嘘かなんてどうでもいい。


どうして夏生にはっきりと反論しなかったのか。


全部があいまいで、私の感情は行き場がない。


唇を重ねても、そこにあるのは憧れの甘ったるさではなく、罪と使命が混ざったような味しかしない。


甘い恋に溺れる夢なんて欠片もない、醜さの押し付けだ。


嫌だ嫌だとすすり泣けば、深琴が震える手で穂乃花の肩にしがみつき、顔を埋めてきた。



「……自信がなくなったんだ」


半ばやけくそな吐き出しに爪が引っかかった。


腕の筋肉に痕跡を残したまま、行き場所を失っている。


「巫女様の言うことを疑ったことがなかったんだよ。だから人柱が必要ないって言われてそのまま鵜呑みにしてた。なぜ、なんて考えもしなくて……。剣が折れて自分が壊れそうになっていた時、巫女様に救われたんだ。オレにとってはもう一人の光だったんだ」



そうだ、深琴はこういう人だった。


素直すぎるくらい純粋で、そして時にずるく無邪気に笑う人だ。


強すぎる愛情で先に手が出てしまうくらい愚かで、憎みきれない弱い人。


「だけど信じてくれ! たとえ巫女様の言葉が嘘だとしても穂乃花を人柱になんてさせねぇから! 穂乃花はオレの嫁だ! 嫁を守ってこそ男ってもんだろ!」


「ちょっ、ちょっと待って! ……待って」



いつもの軟派な発言が異様に情熱的に聞こえてしまう。


異様な熱量となって直にぶつかってくると、熱の冷まし方がわからなくなる。


感情的に突っぱねることも出来ず、引火しそうな心に目を逸らすだけ。


「このまま一緒に旅をしてくれ。穂乃花も、姉さんたちも全員守るから。穂乃花が好きなんだ。どうか、この気持ちだけは否定しないでくれ」


これ以上否定できない。強く言えるはずがない。


深琴の告白はいつも真っ直ぐだった。


愛情を嘘だと突っぱねる女の子になりたいわけじゃない。


愛されたいのは人間の本能。


全力で守ってくれる男の人をいつまでも卑怯者呼ばわりできるほど、私は鉄壁にはなれないから。



腕に埋めた爪を離し、汗ばんだ指先で跡をなぞる。


顔を見られないまま小さくうなずくと、耳元に掠れた吐息が触れた。


その瞬間、肌がビリビリと痺れて下腹部が縮こまる疼きに震えてしまった。



(これ、ダメなやつ。な、なんとかしないと――)


「ねっ……ねぇ、深琴。巫女様の名前って――」


「穂乃花」



パキッ。

枝が折れる音がした方を見れば夏生が立っていた。



「……すけて」


「えっ?」


蚊の鳴くような声では聞き取れない。


夏生らしくない弱い声に戸惑っていると、夏生は悲痛な面持ちで私にすがり寄ってきた。


「育葉をやめさせたいんだ! 巫女の資格を奪いたい!」


「……えっ?」


それは嵐の予感。


いつも明るく、八重歯を見せて笑う夏生が見せた育葉の妹としての顔だった。


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