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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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4.深琴のやきもち



「えっ!? な、なに……って、深琴!?」


「穂乃花に触ってんじゃねーよ!」


力強い腕が私を抱きしめ、足元が浮く。


深琴の視線が白銀の髪をした男に向いており、見たこともない鋭い目つきをしていた。


「くそっ、ちょっとでも目を離すんじゃなかった……」


「待って! この人はっ……!」


なにやら盛大な勘違いをしている気がして、私はアタフタと深琴の腕を叩く。




「珀斗?」


そこに飛び出した私を追いかけてきた育葉が鉢合わせる。


神々しいほどに麗しい男を「珀斗」と呼ぶ。


珀斗は育葉を視界に入れるや軽々と地面を蹴り飛ばし、ゆっくりと育葉の前に着地した。


「頬、切れてる」


ごくごく自然な動作で珀斗は育葉の口元を指で拭う。


白く細長い指が滑るとひどく艶めかしい。


「だ、大丈夫よ。ありがとう、珀斗」


いくら落ちつきのある育葉でも珀斗の色気には抗えず、気恥ずかしそうに目を逸らしていた。


初々しい光景につい魅入ってしまい、あれほど乱れていた心が一気に高揚して胸が膨らみだす。


わかりやすいときめき現場に、乙女主義者の私は養分を得て気をよくしていた。



「お、珀斗じゃん」


そこに夏生が追いついて、珀斗の胸を肘で小突く。


「サンキュ、珀斗。こいつアタシらの妹なんだ。ったく、急に飛び出すなよ!」


夏生が私に詰め寄り、両頬を摘まんで横に引っ張り出す。


「いひゃっ! ご、ごめ……」


「ちょっと言い過ぎた。ごめん」


シュンとして私の顔色を窺ってくる夏生。


相手を思う気持ちが先行しがちで、感じたことはすぐに言葉に出てしまう。


夏生はわかりやすく愛情むき出しの人だったと、私は擦り切れていた傷に優しく薬を塗られていくのを感じていた。


(厄介なのはむしろ……)


後ろから私を抱きしめて離そうとしない深琴の方だ。


相当虫の居所が悪いようで、私が振り返っても目も見ようとしない。


一体何をそんな怒っているんだ?


むしろこれまでの経緯を思えば私の方が不貞腐れたいところなのだが。



「ねぇ、深琴。力強いって……」


腕をつかんではじめて気づく。


(震えてる?)


深琴はお茶らけてはいるが、実は思慮深い。


何でも言葉にして伝えてくれるが、それは意識してのことで、本当は飲み込みがちな人なのかもしれない。


「ごめん。……追いかけてくれてありがとう」


もう少し、深琴と向き合っていいかもしれない。


こうして私を心配して探してくれる程度には、気持ちを傾けてくれているのだから。


「深琴くん。穂乃花ちゃんを助けてくれてありがとう」


育葉が珀斗の肩を押し、私の後ろに立つ深琴に微笑みかける。


それに深琴は頬を赤らめ、気まずそうに目を逸らして私からスッと離れた。


(なんでそこで照れてるの!? 意味わかんない!)


深琴の耳まで赤くする基準が不透明だ。


散々私を「嫁だ」「好きだ」と言うくせに、育葉にだって気がありそうではないか。


(ふんだ。育葉ちゃんはダメだから。深琴みたいな軟派野郎なんて断固拒否)



「彼、珀斗っていうの。天満山にずっと暮らしているんですって」


一人で表情が落ちつかない状態に翻弄されていると、育葉がほんのり頬を薄紅色に染めて微笑む。


「は、はじめまして……。妹の穂乃花です……」


初対面なのに忙しなく騒いでしまった、と顔向けできない。


加えて珀斗は表情がほとんどなく、何を考えているかさっぱり伝わってこなかった。


鉄仮面、だが顔が良すぎてそれも魅力的だとはしゃぎたくなってしまう。



「…………」


「むっ!? な、なにするのよ深琴!」


「ふん」


本当に意味が分からない。


人を振り回してばかりで、そのくせ自分の気持ちばかり押し付けてくる。


私の気持ちを無視して、大切な大切なはじめてを奪った。


恋に浮かれる時間もなく、夫婦としての初々しさに胸をときめかせることもなく……。


「山小屋へ戻りましょう。うみちゃん一人で待っているから」 


育葉が手を叩いて切り上げると、珀斗の袖をひいて山小屋の方面へ歩いていく。


夏生は私たちを目に止めた後、珍しく何も言わずに育葉たちを追っていった。


残された私は深琴の腕を揺さぶり、不服ながらもこの場を収めようとした。



「深琴。私たちも戻ろ……きゃっ!?」


抱きしめる腕が緩んだと思えば、私の身体はさらに浮いて深琴の肩に担がれていた。


ますます深琴の機嫌がわからなくなり、私の頬は熱くなるばかりで足をばたつかせるしかない。


「ねぇ深琴! 歩けるからおろし……!」


「足。怪我してる」


ムスッとしたまま深琴は一言だけぶっきらぼうに吐き捨てた。


そういえば自分は怪我をしていたんだと思い出し、また熱があがって一気に力が抜けた。


気を張る度に自分の体調を忘れてしまうと、私は決まり悪くなって深琴の襟元を掴んだ。


(これ、心配してるんだろうな。……深琴の顔、見れないや)


出会ってすぐに穂乃花に求婚してくるあたり、深琴は何かがずれている。


私を知っている素振りで、何を根拠にしてか、両想いだと言い続けていた。


最初は喉が切りつけられる吐き気がしたが、今は慣れなのかどこか受け入れてしまっている。


とっくに乙女心は麻痺しているんだと、鼻で笑うしかなかった。

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