4.天満山での再会
♡♡♡ 四 ♡♡♡
四日ほど歩き、通過する村々では深刻そうに荷造りをする人や、土を掘る人を見かけるようになった。
土壌が崩れて田んぼに被害をもたらしていること。
せっかく実りそうになっていた稲も台無しだと大打撃を受けていた。
心もとない状態で歩いているうちに晴れ模様から一転、暗雲が空を覆う。
自然の驚異はすさまじく、まるで道を防ぐかのように落雷が木を倒した。
「前途多難……ってか」
元来た道を戻るしか選択肢がなく、打開策を見つけようと深琴が駆けだした。
植実と二人で待っていたが、戻ってきた深琴の表情は暗い。
「すまねぇ。雨をしのげそうな小屋はありそうだ。だが土砂崩れが起きたら……」
(どうしよう……。視界がぼやける)
頭が重くて、目は乾いてしまい、腕が鉛のようだ。
足取りも重くなってだんだんと深琴の声も聞き取れなくなる。
「――か!」
息づかいがやたらと耳を刺激した。
身体を支える力がなくなり、前に崩そうになると深琴が受け止めてくれたが、急速に意識が遠のいていく。
声が拾えなくなって雨の音だけが耳に残る中、かすむ視界で前方に黒い影が二つ。
そこで意識は途絶えた。
雫が落ちて弾ける透明な音。
心地よい暖かさに目を開いた先には木目調の天井。
そして心配そうに私の顔をのぞきこむ深琴がいた。
「穂乃花……!」
「ごめんね。心配させちゃった」
「ちが……。いや、そうだ」
眉をひそめ、深琴は私の手を掴んで額に押しあててくる。
憂いと安堵が混ざった吐息が穂乃花の手首に触れ、その熱さに頬が同じ温度になった。
「心配した。でも気づけなくてすまねぇ」
自分でも明確に体調が悪かったと考えていなかった。
気を張っていたのもあり、自分の弱さに優しくできなかったのだろう。
「……助けてくれてありがとう」
何を言うのが正解かわからない。
深琴の心配は悪い気がせず、むしろじんわりと体内で血の巡りが良くなる感覚さえあった。
深琴の額に手の甲を近づけて、コツンとぶつけてみる。
軽いいたずらの気持ちでやってみたが、瑠璃色の瞳に自分が映っていると自覚した瞬間、とたんに沸騰しそうになった。
(やだ……なにこれ。恥ずかしい……)
汗でベトベトになった顔。
こんなのをずっと見られていたと想像し、身体を丸くして震えを誤魔化す。
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせていると、頭上でくすっと息をもらう笑いが聞こえてきて尚更ダメになった。
「水、飲むか? もし腹減ってんなら……」
そういえば身体がカラカラだ。
汗で水分が流れてしまい、身体は重たくなって喉がヒリヒリしている。
「ん。お水、飲もうかな」
深琴に支えられながら身体を起こし、水筒の水を一口飲む。
喉を通過した冷たさが心地よく、火照った身体が驚いて委縮した。
「穂乃花ぁ! 起きたー!?」
バーンッ! と、派手な扉の開閉音。
この声が聞こえたときはだいたいすべてが騒々しくなる。
凛とした木管楽器のような声色に反応して、私は懐かしさに急かされて布団をまくり起きあがった。
「ほーのか! 熱出すって相変わらず危なっかしいな!」
「久しぶりね、穂乃花ちゃん」
光が差し込み、まぶしさに目を細める。
倒れる直前に見た二つの影が光に照らされて顔を鮮明にしていく。
影が私の前で足を止めると、その場にしゃがみこんでキラキラした微笑みを浮かべた。
「夏生ねぇ。育葉ちゃん」
育葉は三女で、夏生は四女。
二卵性双生児のため見た目は似ていないが、いつも二人で行動する仲良し姉妹だ。
「夏生さんが助けてくれてぇな。ここは二人が拠点にしてる山小屋だってよ」
深琴の言葉にあたりを見回す。
木造の小屋の外からパラパラと壁を叩く音がした。
「直感が働いただけよっ! アタシがいなければ結構やばかったんだから」
「うん……。ありがとう、夏生ねぇ。育葉ちゃんも」
夏生の明るい物言いには救われる。
夏生はお礼を言われるのが照れくさいようで、琥珀色の外はねしたショートヘアをわしゃわしゃしていた。




