表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/47

3.植実の旅立ち

足を止めた瞬間、毛穴から一気に汗が噴き出して額から頬にかけて流れ出す。


(よかった。祓うことが出来た……)


大きな被害を出さずに祓うことが出来、安堵するもドッと疲労感が押し寄せる。


膝が震えだして立っていられなくなり、前に崩れるように折れてしまった。


「穂乃花! 大丈夫か?」


剣を放り出して、深琴が私の身体を受け止める。


「うん。やっとちゃんと戦えた……」


ずっとお荷物状態なことが引っかかっていた。


今はちゃんと力になれたと達成感に満たされている。


汗が流れてきたので袖で額を拭おう……としてまた“あの感触”がした。


濡れた額がペロリと舐めとられ、身を固くしているとイタズラに笑う深琴が目に入った。


「がんばったご褒美。オレにもして……」


「やっぱりあんたなんてただの助平よぉ!」


もう乙女のプライドはズタズタだ。


少しでも心を許しかけた自分が情けない。


忘れるな。


深琴は私を蹂躙し、下腹部にまで迫る支配で拘束してきた畜生だ。


かき乱される心のままに深琴を突き飛ばし、嘆きに叫びながらこの場から走り出した。





それから一週間が経過して、私は青く晴れ渡る空に長く息を吐く。


この数日は特に珍しくあやかしが多発して、ようやく落ち着きを取り戻した頃合いだった。


「穂乃花っ!」


薙刀の特訓をしていると、家屋の中から深琴が出てきて駆け寄ってくる。


眩しいほどの秋の太陽の下に咲く笑顔。手には鞘におさまった剣が握られていた。


“直った”と、言葉で聞いていないのに溢れ出す歓喜に足は勝手に動き出す。


「よかった! よかったね、深琴」


「穂乃花。ありがとな」


不思議と自然に、自分から深琴に抱きついていた。


耳元で息が掠め、背中に手を回されて身を擦り寄せられる。


抱きしめられても嫌な気はしなかった。


むしろ気持ちを分かち合えて心地よいとさえ、夢にまどろむ感覚に目を閉じた。



「コホン」


わざとらしい咳払いがして、我に返った私は深琴から離れて向こう側を覗き見る。


むずがゆそうに顔を赤らめる遊佐と、気怠そうにあくびをする伊佐治がいた。


「ほのちゃん! おつかれさまなのら!」


「うっ……うみちゃーん!」


伊佐治の隣に立つ小さくて愛らしい植実に抱きつく。


「ありがとね、うみちゃん」


「うみはなにも……」


「うみちゃんがいたから伊佐治さんも動いてくれた。うみちゃんがいなかったら伊佐治さん、絶対に動いてくれなかった。だからね、ありがとう」


植実がずっと伊佐治といたから、互いの傷を分かり合おうと寄り添って前進できた。


なにか一つでも欠けていたらこうはいかなかったと、飽くことなく植実に感謝を伝え続けた。


「まるでオレがていたらくみたいな言い方だな」


「まあまあ。叔父さんがいなければ僕も直せなかったから」


「いつまで続くかわからなかったが、肩の荷がおりたよ。今後は遊佐にまかせた」


「ええぇー……」


伊佐治だけが知る剣の鍛え方は遊佐に引き継がれる。


叶うのならば次がないことを、と深琴は剣を受け取り、深く息を吐きだした。


たくさんの思いが圧しかかる剣は重く、しっかりと両手で握ったあと腰に下げて前を向いた。



「うみ坊」


伊佐治が植実の頭をわしゃわしゃと撫でまわす。


植実が伊佐治の袖を掴んで顔を上げると、伊佐治はどこかスッキリした面持ちで泣きそうに微笑んでいた。


「妹さんといっしょに行きな」


「伊佐治? うみは……」


「オレは大丈夫だ。……ようやく踏ん切りがついた。立派に鍛冶屋引退だ」


うんと背伸びをして、溜め込んでいたものを空に投げ出す。


癒えない右手の傷を太陽にかざして、明日の光を見ていこうとする伊佐治の姿に、植実はずっと堪えてきた不安を涙に変えた。


「全然大丈夫じゃなかったのら」


「だから今は大丈夫だって。右手は動かねぇけどいいんだ。……遊佐が打った剣をみて、嫁に怒られた気分だったんだ。このまま腐っていちゃあダメだってな」


鍛冶屋はやめても次の道を探すと伊佐治は語った。


伊佐治を心配し続けていた植実も前を向こうとして、袖から手を離すと唇を震わせながら笑った。


「ちゃんとご飯食べてほしいのら」


「あぁ」


「お酒はほどほどにしてほしいのら」


「それはむずかしそうだ」


ムッと上目遣いに睨めば伊佐治はたじたじだ。


「わかったって。だからうみ坊もがんばってくれな」


植実の頭を撫でて、伊佐治は隣で見守る私に目を向けた。


「お姉ちゃんをよろしくな」


「……ははっ。もちろん」


「わりぃな。夫婦の旅に同行させちまうけど」


その言葉に私は植実を思い切り抱き寄せ、首がもげそうな勢いで左右に振り、悲鳴をあげた。


「まったくよぉ、そんな叫ばなくてもいいんだぜ? もう認めてくれよ」


「絶対やだ! ありえないんだから!」


ひたすらギャーギャーと騒いだが、だんだんと身体に疲れが押し寄せて肩を落とす。


腹を立てるのに疲れ、家に戻って最後の夜を過ごした。


長かった時間も過ぎれば短かったような……。




その日の夜、植実は伊佐治と話し合い、翌日にはスッキリした面持ちとなっていた。


風呂敷を担いで伊佐治と向き合う。


「元気でな、うみ坊」


桐野村に残るのは伊佐治だけ。


途中まで一緒だった遊佐とも別れ、次の目的地に向かって歩きだす。


「次は天満山だな」


守里に示してもらった次の地点へ。


さて、道中は危険がいっぱいなので気を付けて進んでいこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ