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潔癖巫女は一途な毒に溺愛される  作者: 泉花


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3.剣を持つ者、打つ者の責任

伊佐治の言い分はわかる。


あの剣は特別だ。


巫女の加護が授けられし、八ツ俣を封印する力となった剣だ。


八ツ俣を封印するには勾玉と人柱以外に、鏡と剣を必要とした。


人柱はその三つでは抑えきれず、苦渋の決断として選ばざるを得なかったことだった。


だからこんなにも歯がゆいんだ。


剣を打つ責任は重い。


千年前からずっとあの剣を直す技術を繋いできたならば尚更だ。


だからこそここで諦められるほど、私の覚悟だって安くはなかった。


「簡単じゃなくてもいい。どうすればいいのか、教えてください。伊佐治さんに難しいなら方法を考えます」



目の前でひゅっと息をのむ音がした。


伊佐治の中に鍛冶師としての息は残っている。


ただ手が使えない。


身体が動かなくてはどうしようもないことだ。


それでも鍛冶場を手入れし続けたのは誇りがあったから。


自分はおざなりにしても、鍛冶師として生きた場所だけはそのままに。


これ以上に狂おしい仕事への切望はほかにない。


私も、深琴も、諦められないから、伊佐治の情熱に火をつけるまで粘ってやるんだ。



「オレが打ちます」


後ろから玄関口を荒く開く音がした。


振り返った先に汗ばんだ深琴がいる。


私の隣に並ぶと鍛冶場で手をつき、プライド全捨てで土下座をした。


「これだけは譲れねぇ。オレが……オレが暁月村に剣を持ちかえる。直せるまでオレはここを離れねぇ!」


ヘラヘラ笑ってばかりの深琴が見せる絶望の中に見出す一点の光。


この人は何でもないふりをして、心には大きな鉛を抱えているんだ。


――私と同じように。


いや、もしかしたら私以上に罪に苛まれて旅をしてきたのかもしれない。


そう想像すると、手を伸ばさずにはいられなかった。



「……穂乃花?」


「待ってる。待っててあげるから、剣を直して暁月村に行こう」


私の言葉に深琴は目を見開き、すぐに俯いて唇を丸めてしまった。


泣くのをこらえているのだろう。


わずかに震える肩を見て、私は目を伏せてかつて生きた故郷の景色を思い浮かべた。



千年経って地名が変わってしまっただけで、私の故郷はそこなんだと薄々は感じていた。


(悔しいけど、帰る場所が同じなら仕方ないよね)


きっとそこが私の帰る場所でもあるから。


「付け焼刃で刀は作れるもんじゃない」


伊佐治は唸り声をあげ、首裏を擦りながら深琴に手を差しだす。


「直るならなんでもするんだな?」


厳しい口調の問いかけにハッとして深琴が顔をあげる。


相応の技術、熟練度、剣の顔色をうかがう力。


深琴は何一つ持ちあわせていない。


そんな人間に一発で作れるはずがないと、伊佐治は説教をするとともに折れた剣をだすように強く要求した。


折れた剣を受け取り、状態を見て伊佐治は大きいため息を吐くと、深琴の額にデコピンを食らわせた。


「いさ……」


「俺が言うことに絶対NOは言うな。やれと言ったことはやりとげろ。いいな?」


思いが伝わったのか、一気に道が開けて視界が輝きだす。


深琴に視線を向けると、根詰めていたものがはじけ、安心と苦さの混じった微笑みを浮かべていた。


「ありがとうございますっ……!」


これで良かったんだ。


深琴が救われた顔で穂乃花を見つめてくるものだから、どう微笑み返せばいいかわからない。


ズルい人だ。


私の大切なものを奪っておいて、こんな残酷に無邪気な笑みを浮かべているのだから。




翌日から伊佐治の指示にしたがって忙しなく動いた。


あれを用意しろ、これを取ってこいと目の回る速さだ。


まったく剣を打つこととは関係ないように思えるが、それを言うのは控えた方がいいと口を噤んでいた。


「深琴。これ、あげるわ」


休憩のため、家に戻ってきた深琴に竹皮に包んだおにぎりを差しだす。


「おー。ありがとな、穂乃花。嫁さんの握り飯とかうれしいなぁ」


いつもより声に覇気がない。


お調子者の言葉は吐く癖にそんなのでは、私だって強気に出られなくなってしまう。


握ったおにぎりに一口かじりつく姿を尻目に見て、胸のあたりがジュクジュクと痛むことに眉根を寄せた。


「あの……大丈夫?」


「ん? あぁ心配すんな。これくらいどうってことねぇ」


深琴は一日単位で出かける日もあれば、数日帰ってこないこともあった。


進捗を尋ねても深琴はあいまいに誤魔化してくる。


(伊佐治さんしか頼りに出来ない。……はがゆい)


「穂乃花はやさしーなぁ」


「は……えっ……と。そんなことは……」


「ずっと気を張りっぱなしな必要はないからな」


それは深琴のことだろう、と頬を膨らませて睨む。


対して深琴は目を細め、やさしい色に笑んでいた。


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