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第3回 カイトを失ったSランクパーティの、あまりにも早すぎる崩壊

「チッ、おい! まだ1階層目の半分も進んでねえぞ! なんでこんなに体が重てえんだよ!」


王都近郊、Sランクダンジョン『忌まわしき竜の顎』。

その薄暗い岩道を歩きながら、リーダーの勇者ゼクスは、自身の黄金の鎧をガタガタと鳴らして悪態をついていた。

いつもなら、ダンジョンに入った直後は羽が生えたように身軽だったはずだ。それなのに、今日は歩を進めるごとに鉛のような疲労が足腰を蝕んでいく。


「ぜ、ゼクス、ハァ、ハァ……待って、重い、重すぎるわよ……!」


後ろを歩く魔導士の女・ミーシャが、顔を真っ青にして地べたにへたり込んだ。彼女の背中には、カイトがいつも背負っていたような、巨大な革製のリュックが不格好に括り付けられている。


「ふざけるな、ミーシャ! ただの魔力ポーションと予備の杖を背負っているだけだろうが!これくらい一人で持て!」


「無理よ! 魔力ポーションって、1本で1キロ近くあるのよ!? それを20本も持たされて、まともに呪文の詠唱なんかできるわけないじゃない!」


重戦士の男・ガルクもまた、大汗をかきながら息を切らせていた。


「ゼクス……俺も限界だ。予備の大盾と、今拾った魔結晶の塊を背嚢に入れてるんだが、肩の骨が軋んでやがる。カイトの奴は、いつもこれを涼しい顔して背負ってやがったのか?」


「うるさい! あの無能の名前を出すな!」


ゼクスは激昂して地面を蹴った。

そう、彼らは今さら気づいたのだ。

重い装備、大量のポーション、拾った重い戦利品。それらをカイトが『無限収納』で全て預かっていたからこそ、自分たちは「常に身軽な万全の状態」で戦えていたのだという、あまりにも当たり前の事実に。

奴隷市場で買ってきた新しい荷物持ちの奴隷は、ダンジョンに入る前のプレッシャーで怯え、宿屋に逃げ帰ってしまった。アイテムボックス持ちの希少な冒険者は、全員他の一流パーティに囲い込まれており、戦闘レベル1のカイトをゴミのように追い出した『暁の剣』に手を貸す者など、王都には一人もいなかった。


「もういい、俺が持つ! 俺の『聖剣』の重さに比べれば、ポーションの束など――ぶっ!?」


ゼクスがミーシャからリュックをひったくろうとした、その瞬間。

背後の暗闇から、無数の鋭い牙が躍り出た。


――ギャァァァァァァッ!!!


1階層目の雑魚モンスター、Dランクの『ケイブウルフ』の群れだ。

いつもなら、ゼクスの一振りで一網打尽にできる文字通りの「雑魚」だった。


「チッ、来やがったな! ミーシャ、援護しろ! ガルク、前に出ろ!」


「む、無理よ! リュックの紐が絡まって、杖が上手く振れな――」


「クソッ、大盾が重くて構えるのがワンテンポ遅れるッ!」


いつもなら身軽に動けたはずの二人の初動が、荷物の重量のせいで致命的に遅れる。

ガルクの防御陣形が崩れ、ケイブウルフの一匹がミーシャの腕に噛みついた。


「いやぁぁぁぁっ!? 痛い、痛いぃぃっ!」


「この雑魚どもがぁっ!」


ゼクスが聖剣を引き抜き、力任せにウルフを叩き斬る。だが、いつも通りの「身軽な踏み込み」ができなかったせいで、剣筋がわずかにブレ、仕留めきるまでに余計な魔力と体力を消費してしまった。

どうにか群れを駆逐した頃には、パーティ全員が息を荒らし、満身創痍になっていた。

1階層目の、ただの雑魚相手に、だ。


「は、早く……魔力ポーションと、回復薬を……!」


腕から血を流すミーシャが懇願する。ゼクスは苛立ちながら、カイトから無理やり吐き出させた『暁の剣』の予備物資リュックを漁った。


「あったぞ、これを飲め! ……あ? おい、なんだこれ、冷たくねえぞ」


ミーシャが受け取ったポーションを口に含んだ瞬間、不快そうに顔を顰めて吐き出した。


「ゲホッ、何これ!? 生ぬるくて酸っぱいわよ! 魔力の循環もほとんど感じられない……これ、劣化してるわ!」


「バカな!? カイトが持っていた時は、いつでも冷え冷えで、最高の品質が保たれていたはずだぞ!」


ガルクがハッと目を見開いた。


「……ゼクス、思い出した。カイトの『無限収納』は、ただのバッグじゃねえ。中に入れた物の時間を止めて、劣化を防ぐ仕様だったはずだ。普通のリュックにこんな大量の液体ポーションを詰め込んで、ダンジョンの濁った魔力に当てちまったら……一瞬で腐るに決まってんだろ!」


「な……っ」


ゼクスは目の前が真っ暗になった。

カイトの『無限収納』は、彼らにとって都合の良い「冷蔵庫」であり「最高級のセーフハウス」だったのだ。

手元にあるのは、重くて、ぬるくて、劣化して使い物にならないポーションの山。

対して、自分たちの肉体は、1階層目にしてすでに疲労困憊。


「ゼクス……どうする? これ以上進むのは、自殺行為だ。一度、街に戻るか?」


ガルクの苦渋に満ちた提案に、世間から『光の勇者』と称えられる青年のプライドはズタズタに引き裂かれていた。Sランクパーティが、1階層目で物資不足になって撤退など、ギルド中の笑いものだ。


「ふざけるな……! あいつだ、全てはあの無能のカイトが、ポーションの正しい管理方法を俺たちに教えていかなかったのが悪いんだ!」


ゼクスは血走った目で、ありもしない八つ当たりを叫んだ。


「街に戻るぞ! そしてカイトの奴を力ずくで見つけ出す! あの役立たずめ、俺たちに泣きついて復帰させてくれと乞うてきても、絶対にただでは許さんからな……!」


彼らはまだ知らない。

自分たちが血と泥にまみれて1階層目を這いずり回っているその頃、カイトは隣国の美しい王女に「世界の損失」とまで称えられ、最高級の馬車のふかふかのシートに揺られているということを。

納』を使った模擬戦での圧倒的な無双と、シルヴィア王女の更なるチョロイン化)です。

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